異世界に転生したので冒険者を目指そうと思ったが俺のクラスは生産系の修理工。これって戦闘に向かないのでは? だが、前世のある俺だけ2つ目のクラスがあった。やれやれ。これなら何とかなりそうだ。
第57話 バビロンズフォース団長。ヴラドレヴィッチ。
第57話 バビロンズフォース団長。ヴラドレヴィッチ。
城壁の火災はほぼ鎮火。
後の消火を他のエルフに任せた俺が前線に着く頃には、全身から血を流すイクシードの姿があった。
「エルフ将軍とはいえ、我らバビロンズフォースにかかれば他愛もない」
「ぐふふ。手も足も出ないようでござる」
「ふぉっふぉっ。そろそろ捕えますかのう」
「くっ」
イクシードを援護しようとするエルフ兵だが、そうはさせじとバビロンズフォースのメンバーが放つ弓と魔法により、近づけないでいた。
「イクシード様!」
「おのれバビロンズフォースめ!」
なるほど。奴らがバビロンズフォース。
イクシードが一度は負けた相手というなら援護が必要。
「イクシード! 援護する!」
俺は鋼鉄の剣と盾を手にイクシードの立つ元へと走り寄る。
「ファイア・ボンバー」
爆発。炎の爆風が走る俺の身体を揺るがすが。
「ぬっ! 全身大火傷でとても動けぬはずが?」
爆風の中、俺はそのまま駆け続ける。
「ふぉっふぉっ。お主の魔法はまだまだ甘いのう。こやつのように鈍重な相手にはこれよ」
杖を手に老人が魔法を詠唱する。
「Aランク魔導奥義ファイア・レーザー」
杖を発した炎はまるで光線。
一筋の炎の線となり俺の身体を直撃する。
「Bランク盾術・シールド・ガード」
炎の熱線を、俺は鋼鉄の盾+55で受け止める。
「ふぉっふぉっ。鋼鉄の盾など、熱で融解しておしまいだて」
老人の杖を発する熱線。
俺は鋼鉄の盾で受け止めたまま、逆に押し返しつつ走り寄る。
「ふぉっ?! なぜ、なぜ盾が融解せんのじゃ?」
何故も何も分かり切った疑問。リペアのお陰である。
必死に熱線にMPを投入、放射を続ける老人の姿。
だが、俺の盾は溶解するその傍から修復されていく。
「ぐふふ。背中ががら空きでござる」
盾で熱線を受け止める俺の背後に、ピタリと暗殺者が寄り添っていた。
「ご主人様! スラッシュ!」
その暗殺者に向けて、イクシードが剣を振るう。
「じゃ、邪魔するなでござる!」
間一髪、イクシードのスラッシュを回避した暗殺者だが、そのままイクシードは暗殺者を追いかけ剣を斬り結ぶ。
イクシードが暗殺者を相手取るその間、熱線を撃ち終えて肩で息をする老人。
その眼前にまで俺は詰め寄っていた。
「やらせぬ。貴様も盾を使うようだが……まだまだ未熟」
老人を庇うよう俺の前に立ち塞がるバビロンの盾。
バビロンズフォース団長。ヴラドレヴィッチ。
バビロンズフォースの全ての中心となるのがこの男。
異世界で最も硬度が高いという、ミスリルの盾。
奴がその盾を構える限り、全ての攻撃は防がれる。
奴が攻撃を受け止め、他のメンバーが攻撃する。
奴らの鉄壁のコンビネーションを打ち砕かぬ限り、勝利はないというのなら。
「打ち砕くまでだ! スラッシュ!」
カーン
俺の斬撃は、ヴラドレヴィッチが構えるバビロンの盾に弾かれる。
「エルフ将軍に比べれば止まって見えおるぞ」
俺の剣術はBランク。
Sランクであるイクシードの斬撃をも受け止めるヴラドレヴィッチ。
やつからすれば児戯のように見えるのだろう。
「攻撃とはこうである。パワー・スラッシュ!」
ヴラドレヴィッチが振り降ろす剣。
咄嗟に俺は鋼鉄の盾+55に付与するデストラクションを解除する。
カーン
「む? まさかミスリルの剣を受け止めただと?」
ヴラドレヴィッチが持つ剣。その刀身は新緑に輝いていた。
その輝きは、リジェクション砦で回収したユーカリの剣と同じ輝き。
おそらくだが、あの剣。元はエルフの鍛冶師タブリスが作った剣。
だとするなら、デストラクションするわけにはいかない。
完全破壊した装備はリペアでも修復は出来ないのだから。
「ふむ。ファイア・レーザーを受け止めたことといい……貴様の盾。ただの鋼鉄の盾ではないようだな」
ヴラドレヴィッチがミスリルの剣を受け止められたことに驚くその隙に。
「スラッシュ!」
カーン
再び俺の斬撃は、ヴラドレヴィッチが構えるバビロンの盾に弾かれる。
「遅い。ハエが止まって見える!」
お返しとばかり振るわれるヴラドレヴィッチの剣を俺が盾で受け止める。
「うおらー! 団長だけじゃねえ。俺もいるんだぜ!」
剣を受け止めて動きの止まる隙を狙って、ヴラドレヴィッチの背後から進み出た大男。両手の大剣を振り降ろそうとするその寸前。
「させません」
イクシードが大男に斬りつける。
「うおっ! 邪魔しやがって」
「しぶといエルフ将軍でござる」
イクシードは暗殺者を相手取りながらも、大男を牽制。
2人の男を引き付け、俺の元から引き離す。
「うおー! 我らも援護を!」
「おう。ウインド・アロー!」
「豪炎ファイア・シュート!」
シュナイダーの放つ矢が、エルフたちの放つ矢が、俺を狙う敵のパーティメンバーを狙って放たれる。
「ぬ! 生意気なハエどもが! 神技・アルティ」
パーティメンバーを守るべくヴラドレヴィッチがアーツを発動する。その寸前。
「スラッシュ!」
カーン
「うぬう! 邪魔をするでない!」
広範囲ガードスキル。アルティメット・ガードの発動を阻止した結果。
「ぐうっ」
「まさか」
「我らに傷がっ?」
エルフの放つ矢が、敵パーティの後衛を傷つけ足止めしていた。
周囲の喧噪から隔絶された今この瞬間。
俺とヴラドレヴィッチは1対1となっていた。
リーダーを務めるだけあって、ヴラドレヴィッチの腕。
バビロンの盾を自在に操る実力は、俺より上といえるだろう。
斬りつけようとするその前から、どのように攻撃しようが全て防がれる事が、予感として分かるほどの圧倒的威圧感。
だからこそ……何の問題もない。
「スラッシュ!」
カーン
俺がどのように剣を振るおうが、やつはバビロンの盾でうけ止める。
「スラッシュ!」
カーン ミシリ
「む? 我がバビロンの盾から音が?」
わざわざ盾を狙って攻撃する手間が省けて、ありがたいというもの。
「スラッシュ!」
カーン ミシミシ
「待て! 何故に我がバビロンの盾が悲鳴を?!」
さすがはミスリル鋼で作られたバビロンの盾。その耐久力は桁違いに高い。
俺が剣に付与するデストラクションはBランク。
Sランク素材であるミスリル鋼を破壊するには、一度の攻撃では無理。
となれば当然……連撃!
「スラッシュ・デストラクション・滅多切り!」
カンカンカーン
ミシミシミシー
「ま、待つのである! 我が盾、我が命であるバビロンの盾が!」
バビロンの盾が上げる悲鳴に我慢が効かなくなったか。
「待てって言ってるだろうがああ! アルティメット・バァァッシュ!」
自慢のバビロンの盾を叩きつける。
盾を用いた最強の攻撃。Sランク盾術スキルに対して。
「シューゾウ流盾術。シールド・バッシュ・デストラクション!」
俺もまた鋼鉄の盾+55を打ち付けた。
盾と盾とが衝突。
異世界で最も固い鉱石。ミスリル鋼で作られたバビロンの盾。
対して、一般兵士が採用する鋼鉄の盾。
両者が衝突するのなら、その結果は火を見るより明らかである。
パカーン
「んなああああ!? 我の、我のバビロンの盾がああああ?!」
ミスリルの破片となり砕け散るバビロンの盾。
リペアの付与された俺の盾は不壊。当たり前の結果にすぎない。
盾を失いガラ空きとなったヴラドレヴィッチに向けて。
「スラッシュ・デストラクション・ダルマ切り!」
ズバズバズバーン
身にまとう黄金の鎧を砕き、その四肢を切断。
手足を失い胴体だけとなったヴラドレヴィッチは、草地に崩れ落ちた。
「ふぉ!? そんなまさか? ヴラドレヴィッチがやられたじゃと?」
バビロンズフォースの全ての中心となる男。
ヴラドレヴィッチのいなくなった今、バビロンズフォースもまた地に落ちる時。
「た、助けてほしいでござる! 拙者たちだけじゃとても……」
「ぐあー。やばいって」
イクシードを相手に斬り合う暗殺者と大男だが、彼らを守る盾がなくなったのだ。
例え2対1であろうとも、イクシードを相手に勝てるはずもない。
「ターミネート・スラッシュ!」
2人の首が刈り取られる。さらには──
「ツイスト・シュート!」
「ふぉ?」
シュナイダーの放つ矢が、杖を手にする老人の頭蓋を貫通する。
「今だ! うおー!」
「我らも続くぞー!」
続くエルフ兵の乱入にSランク冒険者パーティ。
バビロンズフォースは壊滅した。
「貴様! おい! 我の、我のバビロンの盾を返せえ! あの盾は我の命。我の人生なのだぞおお!」
後に残されたのは、四肢を失い地面に転がるバビロンズフォース団長。
ヴラドレヴィッチただ1人。
「ママさん! エルちゃんをここへ!」
「はいシューゾウさま! エルちゃん、こっちよ」
「うひ……うひひ。敵、敵はどこなのです……?」
戦を経てエルちゃんもすっかり逞しくなったようで、今も弓を手に血走った目で敵兵の姿を追い求めていた。
「うふふっ。ママもエルちゃんも、弓でたくさん頑張りましたもの。ね」
「うひ……敵? こいつ……敵! うひひ!」
地面に転がるヴラドレヴィッチを見つけたエルちゃん。
弓から剣へと持ち帰ると、その身体に飛びついていた。
「おいっ! まさか……よせ! 小娘、早まるのでない! 我はSランクであるぞ? アルティメット・ガードで、いや、我のバビロンの盾がなければ……うおおおおー! 我のバビロオオオオオオン!」
「うふふっ。こんな生きの良い獲物を譲っていただけるなんて……エルちゃん。しっかりやるんですよ」
エルちゃんのLVは10。HPは102になっていた。
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