第56話 バビロンズフォース

「イクシード! 追撃だ!」


俺は城壁を消火するべく、水魔法で放水しながらイクシードに合図する。


ニューデトロの街へと侵攻して来た神聖第3軍。

総数1万5千のうち、城門前の戦いでおおよそ7割は討ち取ったはずだ。


残り4千500とはいえ、その士気は壊滅状態。

指揮する将軍もなく壊走するだけの存在。

この1戦でエルフ侵攻軍の息の根を止める。


「はい。全員追撃! 教和国兵を逃がさないように!」


真っ先に城壁を飛び降りたイクシードは、逃げる教和国兵を追いかける。

他の兵は城壁の内階段を駆け降り、イクシードの後に続いていく。


「手の空いている者は城壁の消火に協力してくれ!」


俺は外へ飛び出し追撃に参加しようとする住民たちに声をかける。




逃げる教和国兵を追走。切り伏せるイクシードたち。

その行く手を阻むよう、10人の男が立ち塞がった。


「まさか城壁を壊せぬまま、我らの出番が来るとはな」

「ぐふふ。軍もたいしたことないでござるな」

「ふぉっふぉっ。それどころか追撃を食らうとはのう」


白銀の装備で身を固める男たち。


「……バビロンズフォース」


男たちを見たイクシードが怯みを見せていた。


「エルフ将軍。まさか本当に逃げ出していたとはな」

「ぐふふ。せっかく逃げたのに運がないでござる」

「ふぉっふぉっ。よほどまた我らに捕まりたいようじゃのう」


そのうち、先頭の1人は黄金の鎧に身を包んでいた。


「その剣は……」


イクシードは黄金の鎧の男。

その男が右手に持つ剣に目を止める。


「ふむ? この剣が気になるか?」


ミスリルの剣。

かつてタブリスがイクシードのためにと作成したその剣。


「腕の良い鍛冶師が打ったのだろう。良い切れ味だけに、返すわけにはいかぬぞ」


男はゆっくりとその剣を抜き放つと。


「いくぞ!」

「にん」

「ふぉっふぉっ。」


男の合図に10人の団員が一斉に動き出す。


「駄目です! みんな下がって!」


「ふぉっふぉっ。魔導奥義。ファイア・トルネード」


巻きあがる火炎竜巻に、エルフ兵がまとめて宙に舞う。


「うぐぅ……」

「なんて魔法の威力か……」


+30まで強化した皮鎧がズタズタとなり、地面に放り出されるエルフ兵たち。


「ふぉっ? 今ので生きておるとはのう……?」


不思議そうに首をかしげる敵魔導士。

その首を狙って、竜巻よりも一足早く踏み込んでいたイクシードが剣を薙ぐ。


「ターミネート・スラッシュ!」


ガキーン


イクシードの手にするユーカリの剣+12が。

強化したミスリルの剣が防がれていた。


「我が操るバビロンの盾。誰にも破れぬ」


イクシードの剣を受け止め立ち塞がる黄金の鎧。


バビロンズフォース団長。ヴラドレヴィッチ。


冒険者となって以降、ただ盾術だけを鍛え続けた男。

それがバビロンズフォース団長【騎士】ヴラドレヴィッチ。


46というAランク冒険者並みのLVにして、すでにSランク盾術を習得した鉄壁の守備を誇る天才。


ヴラドレヴィッチが構えるのは、異世界で最も硬度が高いというミスリル鋼で作られた盾。しかも、普通のミスリルの盾ではない。

バビロンズフォースを名乗る元にもなったレアアイテム、バビロンの盾。

通常のミスリルの盾を遥かに上回る硬度を持つ、古代の盾である。


「シールド・バッシュ!」


叩きつけるバビロンの盾をイクシードは回避する。

が、その背後にナイフを構える男がピタリ張り付いていた。


「ぐふふ。そう動くと思っていたでござる」


ナイフを操るこの男は【暗殺者】

ただひたすらにスピードを追及。

瞬脚スキルを鍛えに鍛えたそのスピードは、Sランク冒険者にも匹敵する。


ズバ ズバ


「くっ」


皮の鎧が切り裂かれる。

+30の強化値もあって致命傷には成りえないが、ダメージは蓄積する。


だが、スピードならイクシードも負けてはいない。

さらにはパワーもある。


態勢を立て直したイクシードが剣を振るう。

身体を捻り回避する暗殺者だが、続くイクシードの剣がその身体を掠めていた。


暗殺者がイクシードを倒すには数10回と斬りつける必要がある。

だが、イクシードの剣技があればただの1振りで暗殺者を仕留めることができる。


慌てて逃げる暗殺者だが、なおもイクシードが剣を振り追い詰める。


ガキーン


立ち塞がるバビロンの盾。

バビロンズフォース団長。ヴラドレヴィッチ。


「そこまでだ」


ヴラドレヴィッチがイクシードを抑える間に、後ろへと逃げ去る暗殺者。


ならばとイクシードはバビロンの盾を避けるよう、素早い動きで側面へと回り込む。


鉄壁の守りを誇るヴラドレヴィッチだが、決してスピードは早くない。

ヴラドレヴィッチを無視して、他のメンバーを狙おうとするが。


「ターミネー!? っう!」


バシーン


ヴラドレヴィッチの横をすり抜けようとするイクシードの身体を、炎の鞭が打つ。


「ふぉっふぉっ。ファイア・ウイップ。素早いお主にはうってつけの魔法よ」


素早くしなる炎のムチ。

火力こそ低いものの、絡みつくムチが身体の動きを縛り付ける。


「うおらー! マックス・スラッシュ!」


背後から進み出た大男が、両手の大剣を振り降ろした。


ズドカーン


絡む炎のムチを引きちぎり、大剣をかわすイクシード。

だが、無理矢理に引きちぎった腕は炎で黒く焦げ、血が流れていた。


「うおー! イクシード様を援護しろー!」

「おー!」


イクシードの苦戦に、他のエルフ兵が一斉に矢を放つが──


「雑魚どもが! 見よ! Sランク盾術。これが神技・アルティメット・ガードである!」


ヴラドレヴィッチが構えるバビロンの盾。

その盾を発した光の壁が全ての矢を弾き飛ばす。


さらには矢を放ち終えたエルフ兵。その動きが止まる瞬間を狙って。


「ファイア・ボンバー」


ボカ ボカ ボカーン


炎が大爆発。背後に居た敵の魔導士が魔法で吹き飛ばし。


「アローレイン・シュート」


ドス ドス ドス


さらに敵の弓士がアーツでエルフ兵を狙い撃ちする。


「くっ。これでは近づけぬ!」

「い、イクシード様!」


地面を立ち上がるイクシードの前に立ち塞がるバビロンの盾。

バビロンズフォース団長。ヴラドレヴィッチ。


「ふん。エルフ将軍。貴様の剣はたいしたものだ。が、我のバビロンの盾は決して破れぬ。我の守りを破らぬ限り、貴様に勝ち目はないぞ」


イクシードの剣技はSランク。

だが、繰り出す攻撃の全てがヴラドレヴィッチ。男の操るバビロンの盾に防がれる。


これがAランク冒険者パーティ。

いや、今やSランク冒険者パーティとなったバビロンズフォース。

その実力である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る