第55話 神の鉄槌。

「やれやれ。Aクラスアーツだか何だか知らないが、俺のリペアはSSクラス。通用しなくとも当然ではないか?」


燃え盛る城門の上。

ハンマーを振るう教和国兵を見下ろす位置に、俺は立っていた。


熱気に炙られ、すでに俺の火事場の馬鹿力は全力発動中。


-------------

※※ 火事場の馬鹿力(S)全力発動中!    ※※

※※ 全スキルが一時的に1ランクアップします ※※


スキル:リペア  (S)→(SS)限界突破中!

スキル:ストレージ(S)→(SS)限界突破中!

スキル:デストラクション(B)→(A)


スキル:消費成長 (S)→(SS)限界突破中!

スキル:自動回復 (S)→(SS)限界突破中!


スキル:剣術(B)→(A)

    槌術(B)→(A)

    盾術(B)→(A)

    投擲(B)→(A)

    採掘(B)→(A)


魔法:水魔法 (D)→(C)

  :火魔法 (D)→(C)

  :風魔法 (D)→(C)

  :土魔法 (D)→(C)

-------------


前人未踏にして限界突破。脅威のSSクラス。

その俺が全力で守るニューデトロの城壁。

たかが1万5千の兵で打ち壊せると考えているなら、俺も舐められたものである。


「なっ! 貴様は誰だ! エルフではないのかあ!?」


「俺はシューゾウ。正統帝国が誇るSSSランク冒険者。人呼んで二重職業ダブルクラスのシューゾウだ!」


返礼と同時。俺は敵の大将と思わしき男に魔法を放つ。


「炎よ。燃え盛る矢となれ。ファイア・アロー!」


Cランク炎魔法。ファイア・アロー。

火事の最中、1ランクアップしたからこそ使える攻撃魔法。


カーン


イワンコを守る親衛隊が、白銀鋼の盾を掲げてその身を守る。


「なに! 正統帝国だと?! まさかエルフどもと正統帝国が手を組んだというのかああ!?」


ランクが上がったとはいえ、ようやくCランク。

ファイア・アロー程度では、白銀鋼装備に身を固める親衛隊には通用しない。


だが──


「ファイア・アロー! ファイア・アロー! ファイア・アロー!」


俺は敵の大将を目掛けて魔法を連発する。

1ランクアップしているのは自動回復も同じ。


Sランクでは1時間に100%の回復だったが、SSランクである今は2倍の200%回復。


俺の最大MP10万であれば、毎分3333のMP回復。

ファイア・アローの消費MPは20となるため、毎分166.6発。

秒間2.7発のファイア・アローを発射できるのだ。


まあ、実際は城壁をリペアしながらのため、もう少し数は落ちるが。


カーン カーン ボーン


「ぐうっ。閣下。ここはお下がりください。危険です!」


「馬鹿を言うなあ! 城門が目の前なのだぞ! 今にも吹き飛びそうなボロい城門がだ! いいから叩き続けろっ! 早く壊せえ!」


イワンコの叱咤に、攻城部隊が一斉にハンマーを振り降ろす。


このニューデトロを取り囲む城壁は木造。


教和国を一戦で打ち倒すにあたり、このいかにも壊れそうな木造城壁がポイントとなる。あと少しで壊れるはず。その希望が教和国兵の命を奪っていくのだから。


「リペア」


ハンマーの一斉打撃に軋みを上げる城門。

その耐久力は俺の一言で瞬時に白光に包まれ修復、全回復となる。


「なっ! この白光はリペアかあ?」

「確かに。言われてみれば城門だけやないで」

「燃える城壁も薄っすらと白光に包まれているぞ」


ようやく気づいたようだ。

俺は戦闘の開始からニューデトロの街を取り囲む城壁。

燃え続ける城壁その全てを、城門の下でリペアし続けていたのだ。


「馬鹿な! そんな、そんな馬鹿げた真似が1人の人間に出来るわけがなあい!」


出来るのである。


「ファイア・アロー! ファイア・アロー! ファイア・アロー!」


ボーン ボーン ボーン


イワンコ大将を守らんと集結する親衛隊。

連発される俺のファイア・アローに1人また1人と倒れていく。


いくらCランク魔法。いくら白銀鋼装備とはいえ、幾度も魔法を受け続けてHPが持つはずがない。


「閣下! 撤退を! このままでは兵の損害が増すばかりです!」


「馬鹿な! もう少し。あと少しで壊れるのだぞお! 見ろ! あの貧弱な城門を。間違いない! あと少しなのだあああ!」


だが、繰り返し打ち付けるハンマー。

その全ての衝撃はリペアが修復する。


「閣下! いくら何でももう兵が限界です! これ以上は!」


城壁からの矢雨が集中する城門前。

このまま城門前に留まることは、ただの自殺行為でしかない。

せっかくの精鋭が無駄に倒れていくだけ。


「ぐあぁぁあー!」

「も、もう無理やって……」

「て、撤退を! 撤退はまだかああ!」


だからといってここで引いてどうなる?

既に大半の兵が討ち取られた今、ここで退いてはただの負け戦。

イワンコの未来はない。


だが、城門を壊せば。街中へ兵が雪崩れ込めば、それだけで勝負は逆転。

将軍としての栄光をつかめるのだ。


しかも目の前の城門、城壁ともに炎を上げ、今にも崩れる寸前。

あと一息。ほんの一押しで勝利が転がり込むというのに……


「なぜこんなボロっちい城門が壊れんのだああああ! おいいぃ! 真面目に殴ってんのか貴様らああああ!」


残念ながら真面目に殴って、それが限界。

現に俺のリペアが発動。俺のMPが消費され続けているということは、今もダメージが入り続けているということ。

それでも、このまま1日中殴ろうが、決して壊すことはできない。

俺のMP自動回復と奴らの破壊力。その軍配は俺にあったというわけだ。


「閣下。もしもエルフと正統帝国が手を組んだのであれば一大事です。本国に報告するためにもここはお引きください!」


「くそっ! くそくそくっそおおおー! 一時撤退だ……撤退しろおぉぉ!」


多すぎる兵が地に倒れたところで、ようやくイワンコが撤退の号令を下す。

大きく数を減らした親衛隊が取り囲む中、城門を離れようと移動するが……


その判断。遅すぎたようだ。


これまで魔導兵を狙い撃っていたイクシードが、撤退する上級大将の姿に矢を放つ。


「エルフ流射術! フィフス・ツイスト・シュート!」


Aランク弓術。5本の回転する矢がイワンコを守る親衛隊5人の兜を貫き、脳天に突き刺さる。慌てて他の親衛隊がイワンコを守ろうと移動する。その間隙。


「神の鉄槌。Aランク投擲アーツ。ストライク・スロー!」


ストレージから取り出したるは神の石。

俺の手から放たれた神の石はイワンコ上級大将。その脳天へと突き刺さり破裂する。


「悪辣なる教和国の大将、森林の四つ葉フォレストフォーリーフユーカリのシューゾウが討ち取りました!」


城壁の上。弓を掲げるイクシードが声を上げる。

風魔法を応用しているのだろう。その声は戦場の隅々まで響き渡っていく。


「うおーっ! シューゾウ殿っ! お見事ですっ!」

「シューゾウ! ユーカリ! シューゾウ! 」


イワンコ討伐により、俺のLVは42に上がった。


「そんな!? イワンコ上級大将が!」

「森林の四つ葉……あの旗は本物ってことかよ!」

「た、大将が討ち取られたんなら、逃げるしかねーって」

「に、逃げろー!」


イワンコ上級大将が討ち取られたという知らせに、教和国兵は一目散に撤退を始めていく。


となれば当然。


「イクシード! 追撃だ!」


俺は城壁を消火するべく、水魔法で放水しながらイクシードに合図する。


ニューデトロの街へと侵攻して来た神聖第3軍。

総数1万5千のうち、城門前の戦いでおおよそ7割は討ち取ったはずだ。


残り4千500とはいえ、その士気は壊滅状態。

指揮する将軍もなく壊走するだけの存在。

この1戦でエルフ侵攻軍の息の根を止める。


「はい。全員追撃! 教和国兵を逃がさないように!」


リペアを停止した城門はあっさり焼け落ちる。

開放された城門を通り抜け、エルフ兵は次々に駆け出していった。

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