第53話 森林の四つ葉! ばんざーい!

サンフランの街近くでの狩りを終えた俺たちは、ニューデトロの街へと帰還する。


「ご主人様。お帰りなさいませ」


「イクシード。近々教和国の軍が攻めて来る。防衛に備えてくれ」


「はい……随分と急ですが、何かなされましたか?」


俺の言葉に疑問の目を向けるイクシード。


「サンフランの街近くを偵察して探っただけだ。装備も調達してきた。白銀鋼の装備が多数ある。腕の立つ者に渡してやってくれ」


ストレージからドサドサ取り出される武器防具の数々。

いずれも修理した上で+5強化済みである。


「なるほど……私もご一緒したかったものです。次回はぜひお誘いください」


その次回を作るためにも、ここ一番。この防衛を成功させねば次はない。


「うおーシューゾウ殿っ! 感服っ、感服ですっ!」

「シューゾウさま……あぁぁっ!」


しかしこの2人……街に帰ったのだから少し大人しくして欲しいものである。



その後、俺はニューデトロの街を守る正規兵に集まってもらうと、それぞれの武器防具、白銀鋼の弓や、鋼鉄の弓を強化リペアしていく。


白銀鋼の弓の強化値は+20。消費MP2万1000。

鋼鉄の弓の強化値は+30。消費MP2万3250。どちらも力作である。

あわせてMP2400を消費して防具、皮の鎧を+15に強化する。


防衛戦となるのだから、城壁から敵を射る弓の強化が最優先。

特にエルフはステータス的にも敏捷が高く弓術を得意としており、相性は良い。


武器防具は強化値が+1される毎に10%の性能上昇。

+30で元の+300%。4倍の性能となる。


同じ鋼鉄の弓を使用する場合、強化したエルフ兵の弓は通常の4倍の性能。

教和国兵士の多くが着用する鋼鉄装備であっても、貫通できるだろう。


ダンジョン都市を出る時は8万1千だった俺の最大MPは、いつの間にか10万。


自動回復Sランクにより失ったMPは1時間で100%回復するわけで、1時間に4名、24時間で96人の強化エルフ弓兵が誕生することになる。


奴隷時代は最大MPが1/10であったためMPを消費するにも制限があったが、今はその制限もない。10万のMPを消費し続けるのだから、俺の最大MPはますます増えていく。


強化エルフ弓兵を生み出す速度も、ますます上がっていくというものである。


イクシードとシュナイダーの弓は白銀鋼。

それぞれMP4万6500を注ぎ込み、+30まで強化する。

二つ名持ちの2名が攻撃において一番の戦力なのだから、頑張ってもらいたい。


「あの……シューゾウさま。エルちゃんがシューゾウさまと晩御飯をご一緒したいと……どうですか?」


ここはニューデトロの街。今は夜。すでに教和国兵を誘惑する必要はないというのに、ママさんはワンピースのような服が1枚きり。ごくり。


「その、聞いてよいかどうか分からないが、エルちゃんのお父さんは?」


「あの人はリジェクション砦へ行ったきり……」


そう言うママさんは寂し気に俺の腕を抱き取っていた。


俺は純情。だが、エルちゃんが一緒に食事をしたいというのであれば、自宅にお邪魔せざるを得ないのであった。



3日後。偵察のために出ていたエルフが大急ぎで街へ戻って来た。


「報告します! 教和国の兵。約1万5千がここニューデトロの街へと迫っております!」


「距離はどれほどですか?」


「今の行軍速度なら、あと3時間ほどかと」


「ありがとうございます。奥で休んでください」


全速力で走って来たのだろう。

息も絶え絶えなエルフ兵を下がらせたイクシードが、俺に向き直る。


「大丈夫でしょうか……?」


「なんだ? イクシード。弱気だな」


「私は一度負けていますので……弱気にもなります」


攻め寄せる教和国の兵は1万5千。


街を守るエルフは兵士が300。住民が2千。

あわせてエルフの戦力は、2千300。


都合、2千300 VS 1万5千。敵はこちらの6.5倍。

城攻めにおいて防衛が有利とはいえ、普通に考えれば勝ち目はないわけだが……


「イクシードが前回、負けた時は俺がいなかった。それが敗因だ」


ここまでの3日間。

俺はエルちゃんの自宅を訪れる以外は、寝る間も惜しんで強化リペアを続けていた。


結果。兵士300名の全員が白銀鋼の弓+20、もしくは鋼鉄の弓+30を所持する強化エルフ弓兵となっている。さらに俺の最大MPも10万まで増えていた。


今日も朝から俺は街の中を歩き回り、見かける住民の装備強化を行っている。

装備の質では、エルフが圧倒的に有利。


「そして今回は俺が、二重職業ダブルクラスのシューゾウがいる。それが勝因となる」


「……なんでしょうか? その、二重職業ダブルクラスのシューゾウとは?」


「イクシードの森林の四つ葉フォレストフォーリーフと同じ。俺の二つ名だ」


「なるほど。私は自分から名乗ったわけではないのですが……」


仕方がないであろう。

誰も名付けてくれないのであれば自分で名乗るしかない。


「ご安心ください。ご主人様には新しい二つ名がございますので」


ニューデトロの街。

その木造城壁の上に、月桂樹ローリエの葉が描かれた旗が建てられる。


森林の四つ葉フォレストフォーリーフ、ローリエのイクシード様を表す旗だ!」

「ローリエのイクシード様と一緒に戦えるなんて……光栄です!」

「うおー! テンション上がってきたぜ!」


続けて城壁の上には、有加利ユーカリの葉が描かれた旗が建てられた。


森林の四つ葉フォレストフォーリーフ、ユーカリのシューゾウ様を表す旗だ!」

「人間でありながら、先代、タブリス様の意思を継いだという新たな四つ葉」

「シューゾウさま……ぽっ」


……いや、俺は二重職業ダブルクラスのシューゾウ。


そもそもユーカリのシューゾウとは何だ?

コアラみたいで全く威厳がないように思えるのだが……


「うおー! ローリエ! イクシード! ローリエ! イクシード!」

「ひぎー! ユーカリ! シューゾウ! ユーカリ! シューゾウ!」


森林の四つ葉フォレストフォーリーフのうち2枚の葉が揃ったのだ」

「ああ。この戦い。絶対勝てるぞ!」

森林の四つ葉フォレストフォーリーフ! ばんざーい!」

「エルフの国ばんざーい!」


だが、まあ、何やら盛り上がりを見せるエルフたちの姿。

ここでわざわざ否定してエルフの士気を落とすこともない。


俺は城壁上でイクシードと並び立ち、もっともらしく手を振るのであった。




「城壁に白銀鋼の盾を並べるのです。射手は盾の陰から射るようにしてください」


イクシードが城壁の上で兵士を指揮する傍ら、俺は城壁に並べられた白銀鋼の盾を適当に強化リペアしていく。


兵士たちと共に、城壁で弓を手にする住民たち。

その中には、弓を手にするママさん。エルちゃんの姿もあった。


「シューゾウさま。これからたくさんの教和国兵が来るのですね……大人げないですけど……ママ少し楽しみです」

「うひ……うひひ。敵……」


「ママさんエルちゃんは無理しないように。死なない限りは俺が助ける。盾に身を隠しながら、じっくり戦ってくれ」


戦いに慣れていない2人が心配だったが、その必要はなさそうだ。

敵に怯える様子もない。少々興奮しすぎにも見えるが、2人とも十分に戦ってくれるだろう。


「シューゾウ殿っ! 私も東の城壁に陣取りますっ。シューゾウ殿はどうされるのですかっ?」


白銀鋼の弓+30を手にやる気満々のシュナイダー。


サンフランの街は東。東から襲い来るであろう教和国に備えて、東の城壁に強化エルフ弓兵を含めた主力を集めるポジション取り。そして、俺はといえば──


「俺は時が来るまで、城門の内側で待機する」


「えっ?!」


えっ?! ではない。


俺に弓術はない。Bランク投擲術はあるが、ここで余計なMPを消費したくない。


「その……ではシューゾウ殿はいったい何を? まさか城門を出て単身敵陣へ切り込みを!? 感服ですっ!」


どこからそのような発想が出るのか不思議である。

さすがの俺でも兵士1万5千に突っ込んでは、普通に死ぬ。


「言ったはずだ。俺が最も得意とするのは防衛戦。攻撃ではなく守りだと」

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