第9話 森へモンスター退治
「シューゾウ。そろそろ俺たちと森へモンスター退治に行ってみるか?」
庭でイザーク兄さんから剣術の訓練を受けている時、そのような誘いがあった。
ここ数日、俺と剣を打ち合った結果、これなら十分モンスターと戦えると判断したのだろう。
「カルフェも行く!」
2人の近くで見よう見まねで木の棒を振り回すカルフェが答える。
「お? カルフェも行くか? 良いぜ」
「おにい弱い。カルフェが守る」
ありがとう。カルフェの気持ちは嬉しいが……
「イザーク兄さん。さすがにカルフェは無理なのではないだろうか?」
「無理じゃない」
「ケントにトマスも一緒だから大丈夫だって。任せとけっての」
ケントさんとトマスさんはイザーク兄さんの友達で、15歳になれば一緒に街で冒険者になろうと約束する仲である。3人は毎日のように森へ出かけてモンスターを退治しており、すでに1人前として認められる腕を持っていた。
「その代わりシューゾウは荷物持ちを頼むぜ?」
「ああ。任せてくれ」
イザーク兄さんが俺に森への同行を提案した理由。
そのうちの1つが俺のスキルにあるのは間違いない。
クラスを得てから数日が経過したが、毎日のようにスキルを使用した結果【リペア】のランクはDへ。自身のLVは5に上がっていた。
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LV:5
クラス :修理工
スキル :リペア (D)
スキル :ストレージ(E)(NEW)
EXクラス:九死一生
スキル :火事場の馬鹿力(C)
スキル :消費成長 (C)
HP :82
MP :1280
攻撃 :34
防御 :55
敏捷 :30
魔法攻撃:34
魔法防御:50
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【リペア】がランクDとなり鉄を修理することが可能となったため、イザーク兄さんの鉄装備を修理できるようになっていた。
そしてLV5となった際に俺はスキル【ストレージ】を習得。
これは生産系クラスだけが有するスキルで、異空間に荷物を収納できるスキルである。
ランクEの現在は鞄3個分程度の量でしかないが、それでも荷物持ちには持ってこいのスキルといえよう。
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翌日。俺とカルフェはイザーク兄さんたちに連れられ森に入っていた。
「森といってもこの辺りはまだ村に近いからな。モンスターも出やしないぜ」
そう言いながらも周囲を警戒しながら進むイザーク兄さんたち。
辺りを見回せば、薪に使えそうな倒木がいくつか見えていた。
自分で薪を取りに来れるようになればお風呂の回数を増やすことができる。
今は場所だけ覚えておくとする。
そうしてしばらく森を進むと。
「静かに。近くに何かいる」
そう言ってトマスさんは他の4人に手を振り停止させる。
トマスさんのクラスは【猟師】。
斥候に長けたクラスで武器として弓を所持していた。
「あの藪だ。たぶんホーンラビットだよ」
「シューゾウとカルフェは後ろで見ていろ。決して近づくなよ?」
「僕が矢を放つ。藪から出た後はイザークとケントの2人に任せるよ」
イザーク兄さんとケントさんのクラスは【剣士】
2人が剣を構える後ろで、念のため俺も木剣を構える。
準備が整ったのを見たトマスさんが藪へ矢を放つ。
矢が飛び込むと同時、藪の中から1匹のモンスターが飛び出していた。
中型犬並みの身体に白い地毛。その額には1本の角が生えている。
ホーンラビットか。
ラビットとはいうが、うさぎとは比べ物にならない大きな身体。
いきなり矢を放たれたことに怒ったのか、ホーンラビットはトマスさんを目掛けて走り出す。
その前にイザーク兄さんが立ちはだかると──
「剣術アーツ・スラッシュ!」
ホーンラビットの身体を両断していた。
剣術アーツ【スラッシュ】。
剣術スキルのCランクで習得できるというが、ホーンラビットを一撃で真っ二つにするとは凄いものだ。
「シューゾウ。渡したナイフで解体してみろ」
イザーク兄さんの指示に従い、俺はまだ暖かいホーンラビットの身体にナイフを入れると、身体の奥から魔石を取り出し額の角を切り出した。
「肉は食えるし魔石と角は売ればお金になるからな。袋に入れておいてくれ」
なるほど。勉強になる。
俺に前世があるとはいえ、自分を殺そうと襲ってくる相手と戦った経験はない。
その迫力に足がすくむと同時に、生き物を斬りつけるという行為への拒否反応で、まともに戦うのは難しいだろう。
そのため生のモンスターとの戦闘を近くで見る。実際にモンスターを解体してナイフを通す感触、あふれ出る血に慣れるというのは貴重な体験である。
俺は【ストレージ】に魔石と角、お肉を入れると、イザーク兄さんたちに続いて歩き出した。
「この辺りには薬草も生えているぜ」
その言葉に地面を注意しながら進んでいく。
「おにい。薬草ある」
カルフェが見つけた薬草を【ストレージ】に収納する。
薬草を集めるにはモンスターが出る場所まで来ないと駄目というわけか。
俺のスキル「消費成長」で最大HPを増やすためにも薬草は必要。
いずれ1人で集めに来たいものだ。
「シューゾウ。修理工はスキルを使えばLVが上がるんだろ? 今いくつになったんだ?」
「LVは5だよ」
「マジかよ! シューゾウがクラスを獲得したのって、つい先日だよな?」
「生産系クラスのことはよく知らないけど、そんなに早く上がるんだ」
「すげーな。俺らが10歳のころはやっとLV2だったのに」
「おにい。凄い」
まあ俺の場合、特別ではあるのだが。
「今度のホーンラビットは、シューゾウが相手してみるか?」
「でも生産系クラスはLVが上がってもそんなに強くならないよな?」
「そうだね。でもLV5なら大丈夫でしょ。僕たちもいるし薬草もあるしね」
「カルフェも助ける」
そんなこんなで俺は木剣を手にホーンラビットと相対していた。
イザーク兄さんたちはいつでも援護できるよう、武器を手にその様子を見守る。
俺を突き刺そうとホーンラビットが飛び掛かる。
勢いよく突き出された角を、俺は木剣で受け止めた。
ガイーン
衝撃とともに俺の身体が後ろに押し出される。
ポキリ
さらにはその衝撃に耐えられず、木剣は真っ二つに折れていた。
「アホ! お前の身体で受け止めるのは無理や! 避けんかい」
そうは言われても、思ったよりホーンラビットの動きが速い。
落ち着いて対応すれば勝てる相手なのだろうが、俺は初の実戦。
思う通りに身体が動かないのは、いたしかたない。
木剣が折れ態勢の崩れた俺を目掛けてホーンラビットが追撃する。
武器を失い防ぐ手段のない俺の姿。
これはマズイとトマスが弓に手をかけたその時──
「リペア」
俺の木剣が発光すると同時、折れたはずの木剣は元通りに修復されていた。
「リペア」
続けてのリペアに木剣が白く発光する。
突然の光にホーンラビットがひるんだその隙。
態勢を整えた俺は距離を詰めながら木剣を一直線に突き出した。
ズブリ
発光する木剣はホーンラビットの目を貫通して脳みそへと突き刺さる。
「ギャーン!」
断末魔とともにホーンラビットは息絶えた。
「シューゾウ。お前ハラハラさせるなよ」
「いや。立派だよ。おめでとう」
「せやな。俺らも最初は苦労したからな」
「おにい。りっぱ」
「ふう……ありがとう」
今の突きで傷んだ木剣だが、あらかじめのリペアにより自動修復される。
「いやいや。どうして修理工もええやん」
「そうだね。武器が折れた時は援護が必要だと思ったけど」
「まさかすぐに修理するとはな。やるね」
「光ってかっこう良い」
武器や防具の破損を気にせず戦える。
これは今後、俺が冒険者としてやっていく上で大きな利点といえるだろう。
「後でイーザク兄さん。トマスさん。ケントさんの武器と防具も修理するよ」
「本当か。助かるぜ」
「ありがたいよ。装備の修理も結構な値段になるからね」
「シューゾウ。15歳になって冒険者になったら俺らとパーティ組もうぜ」
「カルフェもパーティ組む」
それも良いかもしれない。
気心の知れたイザーク兄さんたちと一緒であれば心強いというものだ。
その後、倒したホーンラビットを解体しようとしたところで俺は自分のLVがアップしていることに気が付いた。
戦闘系クラスは、モンスターを退治して経験値を獲得する。
反面、スキルを使用しても経験値は獲得できない。
生産系クラスは、生産スキルを使用して経験値を獲得する。
反面、モンスターを退治しても経験値は半分しか獲得できない。
だが、俺は戦闘系クラス【九死一生】と生産系クラス【修理工】のダブルクラス。
2つのクラスを有するため、戦闘と生産、どちらの行動でも経験値を稼ぐことが可能となっていた。
つまりは他者の2倍の効率でLVアップが可能。
これまたとんだチート野郎な俺であった。
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