第10話 2年後。シューゾウ12歳の春。
2年後。シューゾウ12歳の春。
「おにい。起きる」
ポカポカ。
身体を叩く痛みに俺は目を覚ました。
「おはよう。カルフェ」
「朝ごはん。いいかげん自分で起きて」
それだけ言うとカルフェはさっさと部屋を出て行ってしまった。
はあ……なんだかカルフェが冷たくなってきている気がする今日この頃。
つい2年前までは「おにい。おにい」と可愛かったものだが、これが思春期というものだろうか……朝の棒遊びにも付き合ってくれなくなっていた。
とりあえずステータス・オープン。
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名前:シューゾウ・モーリ(12歳)
LV:15
クラス :修理工
スキル :リペア (B)
スキル :ストレージ(C)
EXクラス :九死一生
スキル :火事場の馬鹿力(B)
スキル :消費成長 (B)
スキル :自動回復 (C)(NEW)
HP :530
MP :3215
攻撃 :94
防御 :164
敏捷 :80
魔法攻撃:94
魔法防御:150
魔法:水魔法 (D)成長限界
:火魔法 (D)成長限界
:風魔法 (D)成長限界(NEW)
:土魔法 (D)成長限界(NEW)
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とても12歳とは思えぬHP、MP。
どうやら俺は齢12にして人を超越してしまったようだ。
LVは15まで上がっており、LV10となった際には新たなスキル【自動回復】を習得。
これは時間経過でHP、MPが回復する有難いスキルで、おかげで心置きなく自傷行為で最大HPを上げることができるようになっていた。
魔法も新たに風魔法、土魔法を習得しており、着々と強くなってきていることを実感する。
自身のステータスを確認した俺は朝食のため居間へと移動する。
移動の途中で窓ガラスに曇りを見つけた俺は──
「リペア」
ガラスが光に包まれる。
光の後には曇り1つなく綺麗に磨かれたガラスが姿を現した。
【リペア】スキルで修理した物は新品となる、汚れまで落ちるということに気づいた俺は、掃除感覚で【リペア】を使用していた。
そのため、我が家はどこもピカピカに輝やいている。
もちろんこのような真似、普通の修理工に出来ることではない。
ただ掃除するだけのために素材を用意して【リペア】を使ったのでは、費用がかかって仕方がない。かといって素材もなしに【リペア】を使ったのではMPが不足する。
俺の人間離れしたMPがあってこそ成せる神業といえよう。
移動した居間にはすでに父、母、アイン兄さん、カルフェが集まっていた。
イザーク兄さんは15歳となった1年前、冒険者になるため街へ出て行ったきり、何の連絡もない。生きているのか死んでいるのかすら定かでないのだから、異世界はなかなかに厳しい世の中である。
「今日はカルフェの神託の儀ね。母さんも今日は仕事をお休みして応援に行くわ」
「うい」
「おにいちゃんも行くぞ。可愛い妹の晴れ姿だからな」
「恥ずかしい。おにいは来なくていい」
無念。だが、例えカルフェが嫌がろうが、おにいちゃんは行くのである。
場面は変わり教会。
今年ダミアン村で10歳となった子供18名が教会へと集まっていた。
今回の神託の儀には領主の娘ドロテも参加するとあって、例年以上に多くの人が見学に集まっていた。
「カルフェさん。お待たせしました。行きましょうか」
「うん」
豪華な馬車を降りたドロテお嬢様はカルフェの元へ。
お嬢様はわずか一瞬、俺を睨むように見たかと思うとカルフェの手を取り並んで教会へと入っていく。
カルフェ。わずか2年前までは「おにい、おにい」と着いて回っていたのが、今では2人の間に入る隙間もない。兄としては寂しいものがあるが、カルフェに仲の良い友達ができたことは喜ばしい限りである。
教会内。18人の子供が教会中央の魔法陣に集まり、いよいよ儀式が始まる。
神官8名による詠唱が始まるなか、村の子供が1人づつ大神官の前に呼ばれていく。
儀式の1番手は男爵令嬢ドロテ。
兵士に囲まれ見守るダミアン男爵夫妻が固唾を飲んで見守る中、ドロテが水晶に触れる。
水晶に浮かびあがるクラスは──【神官】
集まった聴衆から歓声が上がり、ダミアン男爵夫妻は手を取り喜んでいた。
「ドロテお嬢様は【神官】か」
「すげー! こりゃダミアン領は安泰だぜ!」
「跡取りの息子は【騎士】で娘が【神官】だっていうんだからな」
「だな。【神官】なら他の貴族との婚姻に不自由はしないし、めでたいぜ!」
【神官】は治療魔法を使う上位クラスである。
治療魔法は一部クラスのみが習得できる貴重な魔法。
各種儀式でも活躍の場は多く、貴族の婚姻相手としても重宝されるクラスである。
娘の結果が良かったからだろう。
ダミアン男爵は配下の兵士を使い、集まった教会の人たちへお菓子を配って回る。
「ドロテやったな。【神官】だなんて。おめでとう」
豪華な服装の男が式場でドロテお嬢様の手を取り祝福する。
誰だよ。まだ式の途中だというのに。
「マルクス様だよ。ダミアン男爵の長男にして、騎士団団長も務める凄いお方だよ」
なるほど。それなら仕方がない。
騒ぎが治まったところで儀式2番手はカルフェ。
ドロテお嬢様の友人ということでこの順番なのだろう。
水晶に浮かびあがるクラスは──【騎士】
再び聴衆から歓声が上がる。
「マジかよ!」
「レオンさんの所の長女だよな」
「【騎士】ってことは騎士爵、これからは貴族だぜ」
「今年の儀式はんぱねーな。黄金世代やで」
【騎士】は【剣士】【槍士】【盾士】【弓士】の能力を併せ持ち、さらには一部の治療魔法も使うことができる上位クラス。
そして、【騎士】は15歳となれば騎士爵を授かり貴族となる。
貴族といっても一代限りで名誉だけの称号であるが、これはかつてアウギュスト帝国を建国した初代皇帝が【騎士】であったことに由来するという。
「うおーカルフェー! やったな! おめでとう!」
大喜びで観客の中から両手を振る俺に対して。
「やったねカルフェちゃん。ダミアン村から【騎士】が、しかもドロテの友人が【騎士】だなんて!」
豪華な服装の男が式場でカルフェの手を取り祝福する。
おのれ。誰だよお前。
「マルクス様だよ。ダミアン男爵の長男にして、騎士団団長も務める凄いお方だよ」
「そういえばマルクス様は17歳で、まだ独身なんだよな」
「同じ【騎士】同士。カルフェちゃんとお似合いじゃないか?」
おのれ。全くお似合いではないというのに……
17歳と10歳ではロリコンではないか。おにいちゃんは許さんぞ。
その後も儀式は粛々と続けられ【農民】【水魔法使い】など、いつものクラスで神託の儀式は終わった。
「領主様の家に来て欲しいって。行ってくる」
母にそう言うと、カルフェは領主の馬車に乗り込んだ。
騎士団長マルクスが先導する馬車。その車内で楽し気に話すドロテお嬢様とカルフェの姿を見送り、俺は母さんと会場を後にする。
「カルフェが【騎士】だなんてねえ。普通に農家に嫁いでくれればと思っていたけど」
15歳となれば爵位が貰える。貴族となるのだから凄いものである。
貴族と平民。
なんだかカルフェが遠くの世界に旅立って行ったような。
このまま馬車に乗ったカルフェが帰ってこないような。
そんな物悲しい気分を感じながら、俺は母と家路についた。
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