第7話 ふう……子供だけに何をするか分からないな

翌朝。


「おにい。起きる」


いつものごとく気絶した俺を起こすべくベッドを覗き込むカルフェだが──


「!? おにいの棒……にょきにょきしてる」


俺の身体が成長した影響か、不幸にも元気となったシューゾウ棒がはみ出してしまっていた。


それを見たカルフェは満面の笑顔でシューゾウ棒を握りしめる。


「!? んほおおおおっ!」


敏感な部分を思い切り握りしめられた俺は、文字通り飛び起きていた。


「おにい。起きた」


「カ、カルフェ! 駄目っ! おにいちゃんの棒が折れるっ!」


なんとか自身の棒からカルフェの指を引き離す。

ふう……子供だけに何をするか分からないな。


「カルフェ。おにいちゃんの棒はデリケートだから、強く握ったら駄目。おにいちゃん死んでしまうから」


「おー」


本当に分かったのだろうか……

とにかく朝一のステータス確認をする。



-------------


名前:シューゾウ・モーリ(10歳)

LV:2


クラス   :修理工

スキル   :リペア (E)


EXクラス :九死一生

スキル   :火事場の馬鹿力(C)(3230 → 3242/10万)

スキル   :消費成長   (C)(5万20 → 5万28/10万)


HP  :23/28 → 29

MP  :1058


攻撃  :16

防御  :21

敏捷  :15


魔法攻撃:16

魔法防御:20


魔法:水魔法(D)

  :火魔法(D)


-------------



痛いと思えばHPが5も減っているではないか。

LVアップでHPが増えていたから良いようなものの……って!?

最大HPが1増えている!


……これはあれか?

カルフェの急所攻撃でHPを消費した分、最大HPが上がったということか?


実は最大HPを上げようとこれまでも多少の自傷行為を試したことはあるが、最大HPが上がることはなかった。やはり自分で自分を傷付けるというのは難しく、HPにして1か2程度の傷ででしか試していなかったのが原因だろう。


しかも【火事場の馬鹿力】の熟練度が12も上がっている。


いつもであれば気絶で4、カルフェの叩きで4の合計8上昇のはずが……

これもカルフェの急所攻撃が原因か?


気絶しているところへの攻撃、しかも急所へのクリティカルヒットとなれば、これはいつ死んでもおかしくないコンボ攻撃。熟練度12アップにも納得する。


ということはだ……効率を考えるなら、今後も急所攻撃で起こしてもらうことが俺の成長につながるというわけか……ゴクリ。





朝食の後。俺とカルフェを除く家族一同はそれぞれ農作業や訓練のため家を出る。

母は出かけるその前に2人に声をかけた。


「シューちゃんカルちゃん。今日は学校でしょ?」

 

俺が暮らす正統アウギュスト帝国は富国強兵政策の一環として教育にも力を入れており、ダミアン村では6歳から12歳までの子供は週に1日の学校が義務付けられている。帝都は毎週5日の学校となっているそうだが、田舎村にそこまでの教育は必要ないのだろう。


「2人ともしっかり勉強するのよ。特にシューちゃん。授業中は眠らないようにね」


自宅を出た俺とカルフェは授業が行われるダミアン村の公民館へと移動する。

村中の子供が集まるとあって、100名ほどの子供でにぎわっていた。


「おにいどこ行くの?」


「すまん。おにいちゃんは今日から上級生グループなんだ」


授業は2つのグループに分けて行われる。

クラスを取得していない下級生グループと、すでに取得している上級生グループ。


晴れてクラスを取得した俺は、今日より上級生グループとして授業を受ける。


「今日から上級生グループで新しく授業を受ける諸君。おめでとう。私が君たちの指導役となる先生だ。よろしくな」


上級生グループとして新しく追加されるのが魔法の授業。

これまでは危険だからと教えてくれなかった魔法がついに学べるのだ。


「まず今日は水魔法から教えていくぞ」


無念……


すでに俺は水魔法と火魔法をフライングで覚えている。

それでも魔法の使い方などは勉強になるため、最後までしっかり授業を受ける。


「よし。今日の授業はここまで。魔法がまだ使えない者も気にするな。1日かそこらで使えるようにはならない。来週まで各自、時間をみつけて練習してくれ」


初心者が魔法を覚えるのは難しく、新しく10歳となった同期の中で水魔法が使えるのは俺だけだった。


授業時間が午前中だけと短いのだから無理もない。アイン兄さんが母から魔法を教わっていたのも授業だけでは覚えられなかったからである。


授業を終えた俺は公民館前でカルフェを待つことにする。


しばらくして初級グループの教室からカルフェが姿を見せた。


「おーい。カルフェー」


「おにいだ! ドロテちゃんまたこんど。ばいばい」


俺の姿を見つけたカルフェは隣の少女に手を振ると、俺の元までぱたぱた駆けてくる。


隣の少女はカルフェの友達か?

1人で大丈夫かと心配したが、早くも友達ができたようで何よりである。


しかし……あの少女は誰だろう?


明らかに高価な服装。化粧や髪型にも気を使っているようで、まだ子供だというのに美人といえるほど大人びてみえる。


「彼女はダミアン男爵の娘でドロテさんだよ」


少女を眺める俺に近くの上級生が答える。


「なんでも市井の様子を知るため、今日から一緒に学校に通うそうだよ」


誰かは知らないが、わざわざありがとう。


ダミアン男爵はこのダミアン村を治める領主であり貴族。


いきなり身分の違う相手が友達とは、大丈夫だろうか?

何か失礼なことをしていなければ良いのだが……


俺の手を握ってくるカルフェと一緒に歩き出す。


「さっきの子はカルフェのお友達かな?」


「ドロテちゃん。今日お友達になった」


「それは良かった。お友達には優しくするんだぞ」


「おー」


後ろを振り返ると、豪華な装備を身に着けた人物と親し気に話しながら馬車に乗り込むドロテお嬢様の姿。


「ダミアン男爵の息子、マルクス様だよ。【騎士】のクラスを授かり、ダミアン騎士団の団長を務める立派なお方だよ」


「マルクス様……素敵。まだ独身なんですって。ぽっ」


同じ学校で学ぶとはいえ、仮にも相手は領主の娘。貴族である。

何か失礼があっては我が家は一族全員打ち首獄門となっても不思議はない。


豪華な装備の兵士を先頭に、馬車は多くの兵士に守られ領主の館へと走り出す。

俺たちを追い越す馬車の窓からは、ドロテお嬢様が手を振る姿が見えていた。

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