第6話 神託の日の夜

神託の日の夜。

俺のクラス獲得を祝って、家族一同いつもより豪勢な食卓を囲んでいた。


「シューゾウ。クラス獲得おめでとう!」

「「「おめでとう!」」」


「ありがとう! ついてはこのシューゾウ。授かりました【修理工】で、粉骨砕身がんばっていきたいと思う所存であります」


一通りお祝いの言葉が終わったところで、食事をつつきながら家族たちが話し合う。


「シューゾウが【修理工】かあ。驚きだぜ」


「でもさ父さん。村の修理屋は2軒あるよ? シューゾウの仕事あるかな?」


「……ないな。狭い村やからこそ繋がりが大事や。修理するにも昔から馴染みのある店を選ぶ」


「修理屋にシューゾウが婿入りすればええやん」


「それがもう跡継ぎの息子さんがいるのよねえ」


「シューゾウ。【農民】の嫁さんを見つけて婿入りせえ。それなら農家でやっていける」


クラスの有無で農業効率に天と地の差が出るのだ。

俺が農家でやっていくなら結婚相手は【農民】が絶対条件。


「そういえばマチちゃんが【農民】だったわよ。シューゾウと同い年だし丁度良いんじゃない?」


「マチちゃん可愛いからモテるよ? シューゾウで大丈夫かな?」


「無理だろ。こいつはカルフェと遊んでばっかで、マチちゃんとは話したこともないだろ」


「おにいはカルフェの旦那さん。だめ」


カルフェがなついてくれるのは嬉しいが、カルフェの旦那役は、おままごとでの役割。現実的には無理である。


「シューゾウは将来どうしたいんだ?」


父からの質問に──


「はい。村を出て冒険者になろうかなと愚考する次第であります」


俺は迷いなく答えた。


ここダミアン村に冒険者ギルドは存在しない。

必然的に冒険者になるためには村を出ることになる。


「マジで? シューゾウも冒険者を目指すんか!」


「イザークのクラスは【剣士】だから大丈夫だろうが……シューゾウは【修理工】だぞ? 無理だ」


「そうね。街へ行くなら修理屋さんを始める方がよくないからしら?」


生産系クラスが戦闘力に劣るのは周知の事実。

俺のチートを知らない家族が反対するのも当然である。


「冒険者に挑戦して駄目そうなら、修理に専念します。それでいかがでしょうか?」


「おにい凄い。エヴァちゃんの腕を直した。だから大丈夫」


俺の言葉に父は目を閉じる。


「……イザーク。一度シューゾウを森へ連れて行ってやれ。シューゾウが冒険者としてやっていけるかどうか、お前が判断しろ」


この場での説得を諦め、イザーク兄さんに任せていた。


「オッケー! そうだ。シューゾウ。後で俺が使ってる剣を修理してくんない? ちょっと刃こぼれしちゃってさあ」


「イザーク兄さんの剣って鉄だよな? 今のスキルランクだと無理だが、ランクが上がれば修理できるはずだ。その代わりイザーク兄さん、森へ行く前に剣術を教えてくれないだろうか?」


「任せな。シューゾウが冒険者を目指すってんならビシビシいくからな?」


「2人とも無理しないようにね。シューゾウは街で修理屋を始めるって手もあるんだから」


とりあえずは俺も冒険者を目指して訓練する。

駄目そうなら街で修理屋を目指すということで話はまとまった。


後は眠る前にMPを使い切るとしよう。


俺の残りMPは300。

水魔法でMPを消費するにもコップに収まる水量ではない。


俺は自宅の風呂場に移動すると──


「水よ。我にその恵みをお与えください。ウォーター」


詠唱完了と同時、俺の手の平から勢いよく噴き出した水が風呂釜に貯まっていく。


今日はお風呂の日ではないが、めでたい儀式の日なのだから良いだろう。


週に一度の風呂当番は俺の仕事の一つである。

家族は俺が井戸水を汲んで来ていると思っているが、実は俺の水魔法。

普通の子供にこれだけの水は生成できないため、夢にも思っていない。


-------------


MP  :10/1055 → 1058


-------------


消費したMPは300。【消費成長】により最大MPは3アップした。


これだけMPを消費したにもかかわらず、水魔法の熟練度は1つたりとも上がっていない。

水魔法の才能がない場合、ランクはDで打ち止めとなるようだ。


ま、俺の場合は最大MPが上がるから無駄ではないか。


続いて風呂の水を沸かすべく薪を並べると──


「火よ。燃え盛る炎となれ。ファイア」


火魔法で薪に火を付けた。


これは母が薪に火を着けるのを、こっそり覗き見して習得したものである。


MPの少ない子供が魔法を使っては危険なため、俺とカルフェの前では魔法を使わないようにしていたので、覗き見るにも苦労したものだ。


クラスを習得した今後は母から堂々と魔法を教わることができる。


風呂が沸いた後、俺はカルフェを連れて風呂場へと向かう。

まだ子供である2人は早くに寝るため、一番先にお風呂へ入ることになっていた。


「おにい。ばんざい」


脱衣場でカルフェが両手を上に上げたところで、ワンピース状の服をスッポリ取り去る。


やれやれ。8歳だというのに、カルフェの甘え癖はなかなか直らないものだ。


さすがに下着は自分で脱ぎ捨てたカルフェ。

そのまま浴槽に飛び込もうとする所を捕まえ、身体を洗っていく。


まあ……やっぱり8歳だとまだまだ子供である。


「次、おにい洗う」


続いてタオルを手にカルフェが俺の身体を洗ってくれるのは良いのだが……


「おにいの棒。ごしごし」


なぜかカルフェは俺の棒がお気に入りらしく、いつも真っ先に洗おうとしてくる。

木の棒を振り回してのちゃんばらごっこも好きだし、そういう性格なのだろうか?


「カルフェ。駄目だぞ。お風呂では、身体の上から洗うのが順番だ」


身体を洗い終えた後は2人一緒に浴槽へ。


ザパーン。


ふう。やっぱりお風呂は良いな。毎日でも入りたいところだが……


俺のMPがあれば毎日でも水は出せるが、風呂を沸かすための薪には限りがある。

森へ行けるようになれば、自分で薪を集めることができるようになったら、風呂の回数を増やしてみたいものだ。

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