第2話 そんなわけで母さん。俺に魔法を教えてもらえないだろうか?

俺のスキル【消費成長】は、HP、MPの消費量に応じて最大値が成長する。


しかしHPを消費する。か……

つまりは怪我をすれば良いのだろうが……さすがに今試すのは危険である。


ただでさえHPの少ない5歳児。わずかHP1の怪我であっても命にかかわりかねない。もう少し年齢が上がってから、薬草やポーションなどの治療環境を整えてからとする。


ではMPを消費するとなるわけだが……MPを消費するにはスキルや魔法を使用する必要がある。


俺が習得しているスキル【火事場の馬鹿力】【消費成長】ともにパッシブスキル。

MPを必要とせず発動するスキルであるため対象外である。


MPを必要とするスキル、例えば【スラッシュ】であれば【剣術】スキルのランクを上げれば習得できるというが……【剣術】スキル自体が長年に渡り剣を振り続けなければ習得できないのだから、今はどうしようもない。


となれば魔法となるわけだが……


一般的に魔法を習得するのはクラスを入手してから。10歳以降が望ましいとされている。


なぜかといえば、MPが0になれば気絶してしまうからである。

10歳未満は最大MPが少ないため、魔法を発動しようとするだけで気絶する。

これでは危険なだけで意味がない。


だが……俺には意味がある。


MPを消費すればするだけ最大MPが上昇するという【消費成長】スキル。

例え魔法が発動しなくとも、MPを消費するという行為自体に意味がある。


「そんなわけで母さん。俺に魔法を教えてもらえないだろうか?」


「……何がそんなわけか分からないけど、シューちゃんに魔法は早いから駄目よ?」


「無念……」


まさか俺には前世がある。つまりは、お宅の子供には森田修造という享年30歳、おっさんの魂が入っている。などと母に言えようはずがない。


そのため俺は自身のEXクラスについて、家族の誰にも内緒にしていた。


ま、教えてくれないなら自分で覚えるまで。


異世界の人間は、誰もが魔法を使うことができる。

もっとも、使えるといっても種火を灯したりコップに水を入れるなどの生活に便利程度の魔法。


使えるということと使いこなせるということは別であり、魔法関係のクラスを授かった者でなければ効果的に使いこなすことは不可能である。


とりあえず今は魔法の威力などどうでも良い。


農家である俺の家は、父も母も水魔法を習得していた。

干ばつなど水不足となれば水魔法で対応する必要があるからだ。


今年10歳となった長兄アインのクラスは【農民】

彼もまた水魔法を習得するべく自宅の庭で母から指導を受けていた。


「アインちゃん。目を閉じて体内の魔力を感じるようにしてごらんなさい」


そして俺はといえば──


ふむふむ、なるほど。


などと呟きながら、庭の植え込みに潜み母の言葉を盗み聞きしていた。


「それじゃ最後に詠唱ね。水よ。我にその恵みをお与えください。ウォーター」


呪文の詠唱が完了すると同時、母の指先から水がほとばしり手に持つコップに注がれていく。まるでウォーターサーバーである。


母に続いてアイン兄さんが詠唱する。


「水よ。我にその恵みをお与えください。ウォーター」


アイン兄さんの指先から垂れ落ちる水がコップ半分程度まで注がれていた。


「はあ、はあ……もう無理です」


「凄いわアインちゃん。それだけ水が出るなら十分よ。決して無理しちゃ駄目。気絶してしまうからね」


10歳の子供のおおよそのMPは10程度。

気絶せずに出せる水はコップ半分が限界のようである。


よし。俺も試してみるか。


魔法のない世界から来た俺にとって、魔力を感じる感覚は難しい。

これまでは雲をつかむような感覚であった魔力が、母の説明を盗み聞くことで何かがつかめた気がする。


「水よ。我にその恵みをお与えください。ウォーター」


俺が植え込みの中そっと呟くと同時、そのまま気絶した。





つんつん。つんつん。自身の身体を何かが突つく感覚に──


「はっ!?」


植え込みの中、俺は身体を起こした。


「いったい何が……?」


「おにい……隠れんぼ?」


誰かと思えば我が妹のカルフェではないか……そうか俺は気絶していたのか……


地面に寝転がる俺の身体を木の棒でつんつん突つくカルフェ。スカートでしゃがみ込んでいるため、当然その中は丸見えである。


うむむ……カルフェはまだ3歳。そんなことを気にする年でもないから仕方ないが、なんとはしたない……


「カルフェ。しゃがむ時はだな、膝を閉じてスカートの中が見えないようにだな……」


「おにい見つけたから、次はカルフェが隠れる」


言うが早いかカルフェは植え込みを抜け出し、自宅の中へと駆け出していった。


いや、隠れんぼをしていたわけではないのだが……


とはいえ気絶していた所を起こしてくれたのだ。

少しくらいは付き合うのが兄の務めというもの。


その後、俺は日が暮れるまでカルフェと一緒に隠れんぼを楽しんだ。



夜。2段ベッドの上段で寝床についた俺は、あらためて自身のステータスを開いてみる。


ちなみにステータスは他人から見ることはできないようで、カルフェの前でステータスを見ていた時も、おにい何やってるの? と不思議な顔をしていた。


-------------


名前:シューゾウ・モーリ(5歳)

LV:1


EXクラス:九死一生

スキル  :火事場の馬鹿力(F)(0 → 20/100)

スキル  :消費成長    (F)(0 → 30/100)


HP  :5

MP  :5 → 6


攻撃  :5

防御  :5

敏捷  :5


魔法攻撃:5

魔法防御:5


魔法:水魔法 (F)(0 → 1/100)


-------------


よし。【水魔法】を習得。そして最大MPが1アップしているな……


くわえて【火事場の馬鹿力】【消費成長】【水魔法】もそれぞれ熟練度が上昇していた。


スキルや魔法は使えば使うほど熟練度が上昇する。

いずれも / の右の数値に達するとランクアップし強化される。

Fランクの今であれば熟練度100で次のEランクに到達する。


しかし……【火事場の馬鹿力】の熟練度が上昇しているのはどういうわけだ?

熟練度が上昇したということは、スキルが発動したということ。

【火事場の馬鹿力】は、危険な状況になればなるほどパワーアップするか……


そうか! 俺が気絶したからだ。


気絶する間は全くの無防備。何者かが危害を加えたなら即座に死亡する危険な状態。

くわえて【九死一生】の職能は、危機的状況から生還すると戦闘系スキルの熟練度を得る。


つまり、俺が気絶する度に【火事場の馬鹿力】【消費成長】の熟練度が上昇する。

そういうことであれば──


「水よ。我にその恵みをお与えください。ウォーター」


コップを片手に頭から布団を被った俺は、周囲に漏れ聞こえないよう水魔法を詠唱すると同時に気絶するのであった。

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