第100話 英雄へ

 「そんなの決まってるじゃない、救うわよ!!」


 エリスの答えは予想通りのものだった。

 いつかその優しさで身を滅ぼしそうな気さえした。


 「我らの悲願を果たし、助けを求めるものには手を差し伸べる。両方できるのなら両方やらない手は無いだろう」


 エリスが助けると明言すれば、ヒルデガルトもまたそれに同意する。


 「リアも手伝うのです!!」


 コルネリアも長耳エルフ族のために戦うことを明言した。

 訊くまでもなく最初から答えは決まっている気はしたが、やはりその通りだった。


 「ハルトは嫌なの?」


 エリスは一応、俺の意見もと尋ねては来たが既に多数決では負けている。

 少数意見を尊重するとはいえ、やはり強いのは多数派だ。

 それに加えて、三人の力は今後とも頼っていくことになるだろうしな………。


 「元々三人に任せるつもりだった。三人が長耳エルフ族を助けると言うのなら手伝うさ」

 

 アルドゥエンナ大森林は立地で言えば、シュヴェリーン公国を解放してさらに西に進んだところにあるのだという。

 つまりはエリスやヒルデガルトの悲願を果たしたその先に長耳エルフ族の解放があるというわけだ。


 「はは、本当は勇者の仕事のはずなのにな……」


 漏れるのは自嘲じみた笑い。

 勇者として相応しくない無職無能と看做されたはずの俺が今や勇者めいたことをしようとしているのだ。


 「その勇者が頼りないからな」

 

 ヒルデガルトの評価は辛辣だがその通りだった。

 現に勇者たちを守って来たのは俺たちと言ってもいい。


 「いっその事、私たちで英雄にならない?」


 エリスは思ってもみないことを言った。


 「本気か?」


 そんな大それたもの、1度なってしまえばもう後には退けないのは間違いない。


 「もちろん本気よ。それにもう私たち、英雄になっちゃってるじゃない?」


 エリスは笑ってみせた。

 確かにケルテンでは仮面の英雄になってはいるが、正体は伏せたままだ。


 「英雄の定義って知ってる?」


 エリスは微笑んだままそう尋ねてきた。


 「勇者は勇敢な連中のことだろ?英雄はそうだな……偉業を成し遂げる人間のことか?」


 自分でも明確な違いはよく分からない。


 「あってるようで違うわね」

 「そうなのか?」

 「英雄ってのはね、実力や才知で余人では達成し得ないことを成し遂げる人のことよ。たとえそれが悪であってもね」


 なるほど、確かにイリュリアに楯突いてるように見える俺たちは悪なのかもしれない。


 「私たちは勇者よりも強い。なら、英雄としての資格はあると思わない?」

 「英雄か……」


 二人の悲願成就のその先は、長耳エルフ族の故郷の解放といったような魔族に奪われた領土の解放になるだろう。

 となれば、確かにそれは英雄じみたことなのかもしれない。

 何しろ、勇者という余人には無理なことなのだから。


 「いいかもしれないな」


 目標が変わった以上、在り方を変えてもいいかもしれない、そう思った。

 それに何より、失われた国土の奪還を果たしたとするのならそれはもう余人には成しえない英雄レベルの話だ。

 

 「なら決まりね!!ヒルデもリアもいいでしょ?」

 

 エリスの意思確認にヒルデガルトは


 「ますます腕がなるな」


 と目を輝かせながら、そしてコルネリアは


 「戦狼族から英雄が出るのですね!!」


 と意気込んで見せた。


 「私たちは仮面の英雄ではなく、英雄になるわ!!」


 目指すところに何ら変わりは無いが、それでも新たな門出となった。

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