第98話 失態
「死屍累々ね……鼻がもげそう」
周囲に散乱する魔物の骸。
二千くらいはいそうな魔物の大群を討伐したはずなのに、疲労感のせいか全くもって喜べなかった。
「魔族を狩らないとキリがないな……」
「なんで魔族ってのは前線に来ないんだ?」
ヒルデガルトの言葉によって、ある事実に気付かされた。
魔族で編成された軍隊を見たことがないのだ。
テオドラ単体でもそれなりに強いと思ったわけで、そんな魔族のみで編成された軍隊があったとするならば、余程脅威なのだろうことは容易に想像できた。
「そういえばハルトは、魔族というものにあまりくわしくなかったな」
魔族だけじゃなくてこの世界についてもだがな……。
「そもそも人族と魔族とでは個体数が違う。故に魔族は人的損耗を恐れて前線に立つことは滅多にないのだ」
なるほど魔族は人族に比べて少数だということか。
「人族相手に勝ちきれないのもそれが理由だな?」
何度となく行われた二種族の戦争はしかしどちらも完全勝利とまでにはいかなかったらしい。
「奴らは寿命が長いという特性、そして神族との戦争により新しい命が誕生しにくくなるという罰を受けているからな」
確かに代替わりが少ないのなら、寿命が長いのも納得だ。
「で、指揮をとるその魔族は敵の本国にいるというわけか」
「そういうことだ……」
聞けば聞くほどなんとも気の遠くなりそうな話だ。
そんなことをヒルデガルトと話していると、少し離れた場所からコルネリアの声が聞こえてきた。
「生存者がいるのですー!」
敵にはテオドラと魔物しかいないと思ったのだが?
仮にこの辺りに住んでいた人だと仮定して、あれほどの魔物の大群が通過したのだから生きていることが不思議だ。
「今行く!!」
一抹の不安を感じた俺は、コルネリアのもとまで走った。
果たしてそこに居たのは
長く尖った耳に美しいブロンドヘア、端正な顔立ち。
だが気になるのは、容姿ではなく二人のうち一人が持つ水晶球だった。
「いかん、割れ!!」
突然、ヒルデガルトが水晶球を魔剣で叩き割った。
「いきなりどうしたんだ?」
拳ほどの大きさの水晶球だ、売れば高値がついたことだろう。
俺はそんなことを考えたが、ヒルデガルトは渋面を浮かべて言った。
「あれは、魔族が映像を伝達するのに使う魔道具だ……」
パーティメンバーしか周りにいないことをいいことに俺たちは仮面を外していた。
遅まきながら失態に気付くがもう後の祭りだ。
「顔がバレたってことか?」
「おそらくだが……」
「そうか……」
あとあとそれがどれほど響くのかという事の重大を知らないまま、その事実を淡々と受け入れてしまう自分がいたのだった。
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