第97話 VSテオドラ

 「【時間操作テンプス・オペリア】」


 テオドラが剣を振り下ろしたのと同時に時間操作の魔法を行使した。

 対象はテオドラの攻撃で時間を十分の一に低下させた。

 避けれる程度の速さにまで低下した攻撃が避けた傍を通過していく。


 「なぜ避けられる!?」


 テオドラは目を剥いた。


 「お前に出来ることが出来ないはずないだろ」


 親切丁寧に教えてやる義理はない。


 「オリジナルの魔法をコピーしたというのか?」


 なるほど、失われた魔法の効果を何処かで知り、それを再現したということか。


 「模倣なら劣化もしてるだろうが、俺のは魔法じゃない。これがオリジナルだ」

 「どういう意味だ!?」

 「さぁ、どういう意味だろうなぁ?」


 はぐらかすと再びテオドラは剣に魔力を纏わせた。


 「答えないというのは、それが嘘だからとみた」


 時間操作を行う対象を変えてきそうだな。  先程の攻撃に対し俺は攻撃の速度を低下させた。

 となればテオドラの次の狙いは俺たちの移動速度の低下だろう。ならば俺は――――


 「【時間操作テンプス・オペリア】」


 地面を叩き割りながら繰り出されたテオドラの攻撃は、しかしまたしても俺たちに傷一つ与えることは出来なかった。

 読み通りだったか……。

 

 「何故だ……ッ!?」


 テオドラは信じられないと言いたげな、或いは信じたくないといったような表情を浮かべた。

 この世界に来てからこっち、何度見たかも分からない表情だった。


 「だから言ったろ?俺のがオリジナルなんだってな」


 テオドラの次の狙いが俺たちの移動速度の低下だという予測のもと、俺は【時間操作テンプス・オペリア】によりテオドラが攻撃の準備動作から攻撃動作に至るまでの時間を十倍まで引き延ばした。


 「ヒルデガルト、次であいつを殺るぞ?」


 攻撃までの動作にかかる時間を延ばせるのなら、そこには大きな隙が生まれる。

 

 「タイミングは指示する」

 「助かる」


 【時間操作テンプス・オペリア】を二重展開させる。

 対象は二つで、先程と同じくテオドラの攻撃動作の低速化とヒルデガルトから見てのテオドラの攻撃動作の低速化だ。

 動作の低速化はどちらも十倍にするので、視覚を共有したことと同じことになる。


 「まだまだッ!!二度防いだくらいでいい気になるなよっ!!」


 自身に喝を入れるようにテオドラは叫ぶと、再び剣に魔力を纏わせた。


 「【時間操作テンプス・オペリア】、二重展開デュオ


 対象を念じれば展開した魔法は念じた通りの効果を発揮してくれる。

 テオドラ未だに魔力を剣に纏わせている最中だ。


 「ヒルデガルト、突っ込め!!」


 十倍にまで引き延ばされた時間の中でヒルデガルトは、そんなことすらも感じさせない軽快な動きとともにテオドラの方へと駆け出す。

 そしてテオドラが攻撃しようと剣を振りかぶったその瞬間―――――ヒルデガルトはテオドラの脇を通り抜けた。

 引き延ばされた時間にして3秒、テオドラの時の流れの中では僅かに0.3秒。

 きっと目にも止まらぬ速さで近づいてくる何かが視界に映った気がする、その程度の認識でしか無いはずだ。

 テオドラが剣に纏わせた魔力が制御を失い、暴走を始める。

 【時間操作テンプス・オペリア】の時間操作が行える対象として魔力は含まれないが故にそれは危機的だった。


 「ヒルデガルト、離脱しろ!!」

 「あぁ!!」


 魔力は明滅を繰り返しながら魔力球を形成し、その球体は肥大化を続けていく。

 そして――――――

 音も立てずに爆ぜた。

 あまりにも眩い光が束の間、視界を奪う。


 「気づきもせず死ねたが幸いか……」


 肉体的な活動に対して行った時間操作により無論、痛みを知覚するまでの時間もまた十倍に引き延ばされている。


 「一瞬ね……」


 白一色だった視界に色が戻り始めた頃、エリスは訥々と言った。


 「そうだな。周りの魔獣も巻き込んでの大爆発で仕事が省けた」


 制御を失った魔力が暴走する光景はあまりにも鮮烈で、脳裏に焼き付いてしまった。

 俺も詠唱中に死ねばそうなるのだから――――。

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