第95話 強敵現る

 「見えたな」

 

 横列隊形で密集する魔物たちが視界に入ってきた。


 「スケルトンとトロールの混合集団か……おそらくはスケルトンの緻密な攻撃にかかりきりになったところに、トロールの力任せの攻撃を浴びせるといったところだな」


 ヒルデガルトが騎士としての直感をもとに敵の意図を分析した。


 「ヒルデガルトとコルネリアには、防御魔法を付与する。ただしその範囲からは出るなよ?」

 「わかった」

 「はいなのです!!」


 コルネリアは鉄爪アイアンクローを装着くすると俺とエリスを庇うように前に立った。

 

 「私はいつでも回復魔法を使えるようにしておくね!」


 詩織は回復魔法が得意なのか回復役に名乗りを上げた。

 前衛が二人、後衛攻撃役が二人、そして回復役が一人。

 攻撃に回れる数は四人とこれまで通りであり、さらに回復役が加わったとなればパーティとしては盤石だ。


 「助かる」


  詩織は俺の右横に立つと、油断なく前衛の二人を見つめた。


 「エリス、行くぞ」

 「任せなさい!!」


 意気軒昂、エリスはフォルセティに魔力を纏わせると詠唱した。


 「我に仇なす者の命は永劫流転、焔滅ロヴィーナ!!」


 紅蓮の業火がスケルトン兵達を襲った。

 前に見たときよりもより広範囲に渡って、敵を燃やしているのはフォルセティの効果なのだろう。


 「【獄牙制滅スプレシオ】」


 エリスの【焔滅ロヴィーナ】の効果が切れたタイミングで間髪入れずに面制圧可能な攻撃魔法を放つ。

 皮膚が焼け爛れ、体に穴を穿たれてもなおトロールは前進をやめず、こちらへと接近してきている。


 「前衛の出番だな!!行くぞ、リア!!」

 「おーっ!!」


 そこへ待ってましたとばかりに二人が斬りかかった。

 ヒルデガルトの魔剣がトロールから再生能力を奪い、コルネリアの鉄爪アイアンクローが生命力を奪う。

 トロールが大振りな体から繰り出す拳の一撃はしかし卓越したセンスと運動神経を持つ二人にとって回避するのとなど容易だった。


 「流石はあの二人ね」


 エリスは嬉しそうに言いながら再びフォルセティに魔力を纏わせて次なる魔法を放つのだ。


 「研ぎ澄まされた力は処断の戦鎚、撃痕マイロナイト!!」

 

 空に浮かんだ魔法陣から現れた光の塊が落下するとともにスケルトン達を圧殺した。


 「【獄牙制滅スプレシオ】」


 今日も今日とてイングナ・フレイは絶好調でたちまち百余りのスケルトン達を薙ぎ払った。

 だが、順調なのは最初のうちだけだった。

 敵の四分の一程度を無力化したタイミングで、翼竜に乗った男が姿を現したのだ。


 「随分と好き放題にやってくれたな」


 トロールやスケルトンとは違う圧倒的な存在感は、召喚されてからこのかた体験したことの無いものだった。


 「お前は?」


 ヒルデガルトが気圧されずに誰何すると男は言った。


 「これから死にゆくもの達への手向けとして教えてやろう。我が名はテオドラ、直接貴様らの前に姿を晒したのは、借りを返すためだ!!」

 

 まるで死神の持っていそうな鎌を構えるとそう名乗ったのだった。

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