第94話 スケルトン兵
「失敗したのか……ッ!?」
テオドラは水晶球に映る勇者パーティの光景を見つめて下唇を噛んだ。
魔王エウリュアレよりテオドラに貸し与えられたスケルトンを中心とする二千の部隊は未だ健在だったが、当初の目的であったヴァンパイア・クイーンとバルトアンデルス四体で勝利を得るという目算は破綻してしまったのだった。
「やはり神などという連中は信じるに値しない」
渋面を浮かべたテオドラは、忌々しげに天を睨んだ。
「陛下より預かった兵力をもって押し潰しますか?」
側近の問い掛けにテオドラはため息混じりに頷いた。
「連中を殺らなければ死をもって償う他あるまい」
既にテオドラは一度、ケルテン国境を破るのに失敗していた。
「幸いにして借りた兵力は、精鋭のスケルトンが中心です。二千もいれば押し潰すことなど容易いでしょう」
つとめて明るく振舞う側近に励まされながら、テオドラは覚悟を決めた。
「どの道、殺れなければそこにあるのは死だ、やるしかあるまい」
眦を決して自らに言い聞かせるようにテオドラは、そう言い放つと静かに手を振り下ろした。
「全軍、我々に牙を向ける目障りな敵共を一掃せよ!!」
朗々としたテオドラの声は、拡声魔法によって周囲に伝わりまもなくスケルトン兵たちが動き出したのだった。
◆❖◇◇❖◆
「無数の黒いものが地平線に見えるのです!!」
翌朝、コルネリアは地平線にテオドラ率いる一団を捉えていた。
「具体的に何か分かったら教えてくれ」
「はいなのです!!」
コルネリアはビシッと敬礼すると、再び地平線を凝視した。
「なんだか嫌な予感がするのだけれど?」
エリスは、ぶるっと震えてみせた。
「だいたい嫌な予感ってのは敵中するもんだ」
何となく予想はつく。
「魔王軍だろうな」
ヒルデガルトもまた同じように見当をつけていた。
「問題は数だが、地平線に黒く見えるというのであればそこそこはいそうだ」
消耗していた魔力は、一晩と半日で既にある程度は回復していた。
「数百程くらいなら殺れるとは思うが……それ以上は保証できない」
だが完全に回復したというわけではなく、あくまでもある程度に過ぎない。
「数百で済むことを祈ろう」
ヒルデガルトは空を拝むようにしてそう言った束の間、あっさりと俺たちの願いはかき消されることとなった。
「数千はいるのです!!トロールとスケルトン兵が多数!!」
コルネリアも事態の重さを理解したのかその声は緊張感が滲んだものだった。
「スケルトン兵というのが厄介だ」
ヒルデガルトは抜剣しながら言った。
「どうしてだ?」
「スケルトン兵は元はと言えば人族の兵士たちだ。戦争で屍になった後、その遺体を『
なるほどつまりは武術を扱えるということか……。
「統制も取れているし指揮官の命令には忠実。オマケに死んでいるから疲労もないし痛みも恐れもない」
続けてヒルデガルトは教えてくれた。
「退くか?」
勝ち目がないのなら退却も視野に入れるべきだ。
俺がそう提案するとエリスが首を振った。
「きっと、あの中には私たちの故国の人もいるのよ?解放してあげたいわ!!」
悪しき魔法でこの世に縛られた彼らをを解放してあげたい、それがエリスの意思だった。
「ヒルデガルトはそれでいいのか?」
二人は主従、一応の意思確認にヒルデガルトは頷くのみだった。
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