第92話 疼痛と独占欲
「なぁエステル……詩織からヴァンパイア・クイーンを引き剥がすことはできたんだよな……?」
髪は白銀のままそれでいて口元から覗く犬歯に困惑しながらエステルへと尋ねると、
「おそらくヴァンパイア・クイーンの根源は滅んだはず。でも深い結び付きを完全に断つことは出来なかったのだろう」
詩織の外見は翼を失ったことを除けばヴァンパイア・クイーンにその身体を支配されていたときとそう変わらない。
「お願い、もう我慢できないの」
詩織は物欲しそうな目で俺を見つめてきた。
「わかったよ……あんまり痛くしないでくれよ?」
彼女がヴァンパイア・クイーンになった時に血を吸われたが、身体に以 異常が無かったのとそれほど痛くなかったので心配はしていない。
「やった!!」
喜ぶ詩織の姿は、ありもしないはずの尻尾が詩織についていて、それが激しく振られている、そんな風に見えた。
「いただきます!!―――――かぷっ」
疼痛が電撃のように身体を襲った。
官能的な動きで俺の首筋に犬歯を突き立てた詩織は、貪るように舌を首筋に這わせる。
「んっ……ちゅっ…れろっ」
甘やかな時間が流れた。
後退させた勇者パーティメンバーの視界には入らないまでも、エリスたちが周りにはいるわけで……
「なんか破廉恥……」
「ふ、二人だけの空間だな」
「むぅ〜私のお兄ちゃんなのにぃ……」
エリスはそっぽを向きながら目だけで追うように、ヒルデガルトは剣の血糊を拭き取る振りをして、コルネリアは目を覆うエリスの指の隙間から、こちらを凝視していた。
「ぷはっ……美味しかった……ってごめん、めっちゃ舐めまわしちゃって……」
詩織は空腹感が癒えたからか、羞恥心を取り戻し自分が犬歯を突きつけた後を急いで拭き出した。
「みんながいる前で私は……ッ!!」
顔を赤らめたり手で覆ったり明後日の方を見たりと忙しない。
「お腹空いてたんだろ……?なら仕方ないだろ。それが詩織にとっての食事なんだからな」
とりあえず落ち着かせるためにフォローしておく。
すると詩織は今更恥じても遅いことを悟ったのか、或いは落ち着いたのか俺を伏し目がちに見つめた。
「取り乱しちゃってごめん。それと一つだけ、お願いがあるの」
「なんだ?」
「もし他のヴァンパイアが現れても春人の血はあげないでね?春人の血は私だけのものなんだから!!」
ん?……どういうことだ?
「ヴァンパイアになって分かったんだけどさ、初めて吸った血に病みつきになっちゃうみたいで……春人の血が特別美味しかったっていうのもあるんだけど……」
「お、おう……吸血されれば血も減るし、詩織以外に吸血を許すつもりはないから安心してくれ」
「よかった!!」
詩織は安堵の表情を浮かべたのだった。
「なんか、私たちを蚊帳の外にしていい空気になっちゃってない?」
漂った甘やかな空気感を振り払うようにしてエリスが俺と詩織の間に入ってきた。
「ちょっと吸血させてもらった位で私のリードは揺るがないんだから!!」
そしてエリスが口にしたのは詩織にとっては問題発言だったのか、
「ちょっと春人、この人と何があったの!?」
「いや……あはは……」
魔力を貰うためにキスしました、なんて言ったら火に油を注ぐことになるような気がして笑って誤魔化すと代わりにエリスが火に油を注いだ。
そのせいで――――――
「ふふん、聞いて驚きなさい!!春人は私と大人の階段を登ったのよ?」
「それはそれで誇張が過ぎないか!?」
とまぁ、こんな調子で揉めたのだった。
一難去ってまた一難、まさにその通りだった。
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