第87話 管理人格
「なぁ、人間が魔族になる方法ってあるのか?」
【
もしかしたら伝承みたいなものがあったりして、詩織をヴァンパイアから人間へと戻す方法が見つかるかもしれない、そう思った。
「過去に神が与えた柘榴によって人が高位の魔族へと変貌したという話は伝承に残っているが、どういう仕掛けなのかは分かっていないな」
求める答えに近いものをヒルデガルトは持っていた。
より魔法の深淵に近い存在である魔族の方が人族より魔法が得意な傾向にある。
となれば、人族が魔族に抗うためには勇者の召喚はもとより手段を選ばないのなら人族を魔族へと変えてしまうということも有り得そうな話だ。
「なら詩織をヴァンパイアに変えたのも、神が関わっているというわけかだな?」
「その可能性は否定できない」
神と敵対する、ある程度は想定した事態だ。
俺には分不相応なこの
「なぁ詩織、その辺どうなんだ?」
こちらを見下す冷淡な眼差しに一瞬だけ光が宿ったのを俺は見逃さなかった。
「シテ……殺シテ……」
力を得るということは、自身が力を取り込みそれを制御する場合と、取り込んだ力により制御される場合とがある。
微かに瞳に光が宿ったその一瞬は、詩織がその制御に打ち勝った瞬間だったというわけだ。
つまり詩織の場合は後者にあたるわけで……厄介だな。
『なぁエステル、取り込んだ力に支配された人間を助ける方法はあるか?』
俺の問いかけに対して、いつものように白い文字が視界に浮かぶことは無い。
そうか……エステルも神だったな。
自身には不都合なことは知識として与えないのだろうな。
『俺はこの力を疎ましく思ったりしないし捨てるつもりは無い。だからもう一度訊こう。取り込んだ力により支配された人間を助ける方法はあるか?』
その問いに俺の胸の辺りが光だした。
『あなたの力を借りる』
脳内に響く声、その声の主を俺は知っていた。
「どうした!?ハルト!!」
「お兄ちゃん!?」
二人は血相を変えて俺の顔を覗き込む。
でも心配するほどのことじゃない。
この声は、間違いなく俺の知るだ。
「安心しろ、問題は無い」
いっそう眩しくなった光とともに現れたのは一人の少女だった。
「誰だ!?」
「誰なのですか!?」
咄嗟に武器を構えた二人に向かって少女は告げた。
「私は創造神エステル。今はハルトの持つ神界知能の管理人格」
エステルはそう言い放つと俺へと向き直った。
「まずは私との約束を果たそうと頑張ってくれていることにお礼を。そしてこれよりは共に歩みましょう」
そう言うとエステルは細く華奢な手をこちらへと差し伸べた。
「人の形になれるのなら、さっさと出てこいよ。遅せぇぞ?」
創造神エステルが俺へと与えた能力の一つ、膨大な知識量を誇る神界知能の管理人格として現れたエステルの今更の登場に違和感を抱きつつも、さりとて受け入れるしかなかったのだった。
仕方なく握手を交わすと、エステルは優しく俺の手を握った。
その手は思いのほか温かかった。
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