第84話 赤い狼煙
「狼煙が上がったわね……」
東の空には事前に決められていた連絡手段である狼煙が漂っていた。
色は赤、緊急事態を示すものらしい。
「どうする?」
エリスの問いかけに、全員が俺を見つめた。
狼煙の方角で戦闘を行っているのは勇者パーティだから、彼らとの問題を抱える俺の意見に従う、そういうことなのだろう。
常に気にかけてくれることは、素直にありがたいと思う。
「俺たちの補給物資の支援をしてくれてるケルテン側の要求でもあるし、見捨てるわけにもいかないか……」
幸いにして俺たちの攻略する西側の攻略ルートでは、これといって難敵は出現していない。
「針路はどうする?」
ヒルデガルトは地図を広げた。
「正直言って国境まで戻りたくは無い」
東側ルートでシュヴェリーン解放を目指す勇者パーティに合流するためには概ね二つのプランがある。
一つは街道の分岐点である国境まで戻る。
もう一つはこのまま原野を横断するというもの。
不必要な戦闘を避けるのなら一度魔物たちを討滅した街道を使うべきだが、時間を優先するのなら原野の横断が手っ取り早い。
「突っ切りましょう」
悩める俺やヒルデガルトに対してエリスは明確に答えた。
「優先すべきは彼らの人命よ。好きにはなれないけど、ケルテン王国の支援を受ける上で彼らを守ることが求められている以上、急ぐべきよ」
エリスは割り切っていた。
シュヴェリーン解放は使命であり、その過程にある勇者パーティを守ることもまた使命の一環なのだと。
ゆえに私情を挟まない、というのがエリスのスタンスなのか。
「そうだな……エリスの言う通りだ」
「迷うこともなかったな」
ドゥラキウムの思惑を知ってもなお、勇者を守るべきというのがケルテン王国の見解らしく、俺たちは支援を受ける見返りとして「可能な限り勇者パーティを守ること」を要求されている。
可能な限りというのがミソなのだが、エリスは今回は可能だと判断したらしい。
「それに、飛べるんでしょ?」
エリスがそう言って俺の顔を覗き込む。
なるべく魔力を温存しておきたいが、致し方ないか……。
「しっかりつかまってろよ」
コルネリアを落ちないように背負うとエリスとヒルデガルトの腰に手を回した。
「失礼するぞ?」
「し、仕方ないわね」
二人は両脇から挟み込むようにして俺の体を両の手で抱きしめた。
「ひょっとして傍から見たらハーレム状態か?」
きっとラノベらしい絵面になっているだろうことは容易に想像がつく。
「無駄口叩かないでさっさと行きなさいよ!!」
エリスに足でげしげしと蹴られながら短縮詠唱を口にする。
「【
地面を蹴るといつもの四割増くらいの速度で東へと飛んだ――――。
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