第82話 覚悟

 翌月―――――ついにシュヴェリーン公国領土の奪還に着手した。

 参加戦力は俺たちのパーティだけではなく、もはや退くに退けなくなったか或いは何かを企んでいるのか勇者パーティとその護衛のためのイリュリア軍が参加していた。


 「私たちの冒険譚の栄誉はアイツらには一ミリだって分けてあげないわ!」


 仮面を顔につけてエリスは今日も上機嫌。


 「エリス様、流石にそれはケチ過ぎるのでは?」


 ヒルデガルトがため息混じりに言うと


 「ケチくらいが丁度いいのよ!旦那の手網と財布の紐は締めとくものよ?」


 と、すっかり庶民らしい回答が返ってきたのだった。


 「健闘を祈る」


 補給を担うと確約してくれたアルジスが見送りに来ていた。

 

 「無事に解放できたのなら、そしたら新生シュヴェリーンを共に支えてくれ」


 こればっかりは統治など何も知らない俺の出る幕は無い。


 「行くぞ」


 エリスたちが俺の体へと触れる。


 「【転移ポータル】」


 見送る彼らの顔は掻き消え、目の前には殺風景な荒野が広がる。

 余りにも多数だったが故に処理しきれなかった魔獣が瘴気を撒き散らし、ご覧の有様というわけだ。

 

 「私達も原因の一旦なのよね……?」


 どこか申し訳なさそうに言ったエリスを、しかし俺たちは責める言葉を持たない。

 なぜならあの日、ドラゴン相手に全力を尽くしたからだ。


 「この先、きっとこんな光景が延々と続くのだろうか……」


 一歩踏み出せば彼女達の故郷、シュヴェリーン公国。

 ヒルデガルトの視線は荒野を辿ってその先をじっと見つめていた。


 「怖いか……?」

 「いや……使命感はあっても覚悟が足りてないのかもしれない」


 やはり変わり果てた故郷を見るには相当な覚悟が必要なのだろう。


 「まぁ踏み出せば覚悟なんてのはあっという間に忘れられるかもしれぞ?」


 そう言って国境を跨いだ。


 「そうよ……私たちは踏み出さなきゃいけないのよ」


 エリスもそれに続いた。


 「そうだな……恐怖に支配されてるようでは目指すべき未来は掴めない」

 

 眦を決してヒルデガルトもエリスに遅れじと国境を跨ぐ。

 最後のコルネリアは何の気負いもなくピョンとジャンプをして越えた。


 「ほら、もう覚悟とか考えずに済みそうだろう?」

 「不思議だな……」


 ヒルデガルトは周囲を注意深く観察しながら先頭を歩み始めた。

 彼女たちと出会ってから四ヶ月、エステルと約束を交わしてからも四ヶ月。

 ようやくそれぞれの悲願成就に向けての第一歩を踏み出したのだ。


 「焦ることは無い、ゆっくり俺たちのペースで進んで行こう」


 ここから先は前代未聞、誰も成し遂げたことの無い前人未到の領域。

全て手探りで進んでいくしかないのだから―――――。

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