第80話 潜入3

 「単刀直入に言おうか、俺たちに関わるな。そして竜人族の里に手を出すな」


 ここまで圧をかけての交渉とすら言えない代物、だがドゥラキウムは頷かなかった。


 「振り上げた拳は何処へ下ろせばいいんだ?」


 何かしらの成果をあげて帰国しなければ、世論が政治が許さないということか。


 「そんなの知るか。断ればお前の仕向けた暗殺者たちと同じ末路を辿るぞ?」

 「くッ……」


 ドゥラキウムは、怨嗟のこもった眼差しで俺を見つめた。


 「おー怖い怖い」


 さしずめ怒り心頭といったところか。

 わざわざ俺たちを討伐しにケルテンまで来てみれば護衛の兵は役に立たず、自身は囚われ脅迫されている始末。

 何もかもが上手くいかず、面白いわけがない。


 「飲むのか飲まないのか、さっさと決めたらどうだ?」

 「なぜ俺の兵は一人として来ない?」


 時間稼ぎなのかあるいは打開策を探しているのか、ドゥラキウムは今更になってそんなことを言った。


 「揃いも揃ってお前の兵は無能だった、そう言うことなんじゃないか?」


 なにも親切に本当のことを話してやる必要はない。


 「無職無能風情が、少し強くなったからって調子に乗りやがって」


 無職無能か……。

 その無職無能に負けてるお前は何んだ?

 と問いただしてやりたくなる。


 「で、そろそろ俺の質問に答えたらどうだ?あんまり気の長い方じゃないんでな」

 「……」


 なかなかに強情だな。

 この状況で沈黙を貫こうとするとは。


 「こいつを炙ってやってくれ」


 こちらの要求を飲まないのなら飲ませるまでのこと。

 名前では呼ばずエリスに目配せを送ると、エリスはフォルセティに膨大な魔力を纏わせた。

 なかなかエリスもわかっているらしい。


 「おいおい、そんな魔力量で炙ったら消し炭だそ?」

 「加減は苦手なのよ」


 そんなやりとりをしつつ、チラリとドゥラキウムを見やれば恐る恐ると言ったふうにエリスの方を見つめていた。


 「全てを燃やせ―――――」


 詠唱の前半部分を口にしたところでようやくドゥラキウムは、


 「わ、分かった……要求を飲もう!!」


 と慌てたように叫んだのだった。


 「手間かけさせてくれたな」


 ヒルデガルトが興味を失ったようにドゥラキウムを剣の柄で小突いた。

 

 「これは、約定ということにしておく。もし仮にも破ったのなら、次は無いからな?」


 いつでもお前如きは殺せるという明確な意思表示。


 「わ、わかったからこの縄を解け!!」

 「お前に命令される義理はない」


 自分の置かれた状況をわかってそう言っているのだとしたら、相当こいつの頭は弱いな。

 未だに皇子サマ気分でいるとは。


 「部下に見られたら恥ずかしいです」


 コルネリアまでもが嘲笑を浴びせる。


 「用は済んだ、帰るぞ」


 【絶界プロセニアム】を解除して、異変に気付いた兵士たちがドゥラキウムに駆け寄るのを尻目に俺たちは帰路についたのだった。

 

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