第79話 潜入2


 「無力化したぞ」


 ヒルデガルトとコルネリアがイリュリア兵十名を目にも止まらぬ速さで斬り殺していた。


 「誰だ!」


 天幕の奥から聞こえるドゥラキウムの声。

 ものの一分足らずの戦闘ではあったが、流石に外の異変には気付いたらしかった。


 「あんたの探してる人間だ」


 天幕の内側の僅かな光で生じるドゥラキウムの影が剣を抜くのがわかった。


 「エリス、暗殺者を捕えるのに使ったやつを頼む」


 天幕に立ち入ったところを斬りかかるというのなら、立ち入らなければいいだけのこと。


 「任せて!何人なんぴとたりとも逃れることは叶わぬ、拘束バインド!!」

 「この俺様に対して盗賊風情の捕縛と同等の魔法を用いるとは片腹痛いわ!」

 

 ドゥラキウムは、拘束を無効化してみせた。


 「なっ、効かないの!?」

 「らしいな……」


 もしかしたらドゥラキウムの職業の影響なのかもしれない。

 だとすればどんな職業かを把握出来ない分、極めて厄介だ。


 「それなら私が奴の身柄を押さえよう」


 ヒルデガルトが剣を構えた。


 「いや、今はいい」


 ヒルデガルトを制止して、ある思いつきをエリスに耳打ちする。


 「あの天幕を燃やしてくれ」

 

 エリスは耳打ちした理由を悟ってか何も言わず頷くと、フォルセティに魔力を纏わせて小声で詠唱した。


 「全てを燃やせ、火球ファイヤーボール

 「おいおい、魔法攻撃しようってのか?効かないことも分からない馬鹿か?」


 得意顔で言ってそうなドゥラキウムの声が聞こえたがそれも束の間、驚きの声へと変わった。

 

 「なんで燃えてんだよっ!?魔法耐性あるはずかだぞ!?」


 火は燃え広がり天幕はどんどん焼け落ちていく。

 だが、【絶界プロセニアム】の影響下にあるために、気付くイリュリア兵はいない。


 「やっぱりこの魔杖すごいわね」


 魔法耐性を突き破る程に魔力を増幅させたフォルセティに、エリスは感嘆の声を上げた。


 「これで丸裸だな。ヒルデガルト、あいつを捕縛してくれ」

 「心得た!」


 ヒルデガルトは目にも止まらぬ速さで間合いに飛び込むや否や、ドゥラキウムに剣を振らせることなく彼の剣を叩き落とした。


 「お前ら、人間じゃないだろ!?魔族なんじゃないのか!?」


 疑いの目を向けてくるドゥラキウム。

 

 「ならお前の妹は魔族を勇者の一人として召喚したわけか……面白いな」

 「ぐっ……」


 ヒルデガルトに取り押さえられながらドゥラキウムは呻き声を上げた。

 魔法攻撃を無効化したあたり、おそらく魔法耐性のある職業なのだろう。

 その証拠にヒルデガルトによる物理攻撃は効いていた。


 「今日はお前に話があってきた」


 【次元牢獄デスモーテリオン】」の中からドゥラキウムの仕向けた暗殺者達を引っ張り出した。


 「こいつがよく喋ってくれたよ。暗殺を命じられたってな」


 ドゥラキウムは言葉が見つからないのか、ただ口をパクパクさせていた。


 「殺しはしない、ただお前に要求があってきた。お前が要求を飲んでくれればここから立ち去ろう」


 そう言うと、ドゥラキウムはガックリと項垂れて言った。


 「は、話を聞かせろ―――――」


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