第78話 潜入
「この先の明かりが見えるだろ?あ、あれがイリュリア軍の幕営地だ!」
ドゥラキウムが仕向けてきた暗殺者の隊長格の男にドゥラキウムの元まで案内させて来たわけだが、ここまで来ればもうこの男の案内も必要ない。
「用無しになったからといって……こ、殺したりはしないよな……?」
男はこちらを恐怖を滲ませた瞳で見つめてきた。
「そうだな……とりあえずこれにでも入っていろ。【
別次元を構築しその中に彼には入っていてもらうことにした。
「割と鬼畜ね……」
エリスが頬を引き攣らせた。
「そうか?この中ほど安全な場所を俺は知らんぞ?」
行使した者でしか開けることの出来ない別次元の空間。
ちなみにこの中には、廃棄に困っている彼の部下たちの亡骸も入っている。
「それはそうかもしれないけど……私だったら嫌よ……」
エリスの言う通りで、おそらく男も心底嫌だと言うだろうな。
なにせ自身の命令で死んでいった部下の亡骸と一緒になるわけだからな。
「まぁそれは置いといて、そろそろ潜入といこうか【
四人全員に隠蔽魔法を行使しその存在を余人からは見えないようにし、気配すら消し去った。
「これって話してても外に聞こえない?」
「あぁ、姿、音、気配を感知させない魔法だ」
「盗賊が泣いて喜ぶような魔法だな……」
ヒルデガルトは、よからぬ事は企むなよ?と言いたげだ。
「そうだな、変態も諸手を挙げて喜ぶだろうな」
とりあえず、その表情が心外だったので悪巧みを匂わせておく。
「お兄ちゃんになら、その……平気です!!」
コルネリアは頬を赤らめモジモジと指を胸の前で絡めた。
「ハルト、リアに手を出したら流石に見損なうわよ!?」
エリスがコルネリアの手を取るとそっと抱き寄せた。
俺何も言ってないのにドン引きされてるじゃん……。
さすがに冗談が過ぎたか。
「安心しろ、目的を
そう言い終えた頃には、心地よく弛緩していた四人の間の空気は締まっていた。
「行くぞ、全員いつもみたいに俺に触れてくれ」
エリスが右手に、ヒルデガルトが左手、コルネリアは腰元に縋り付くように触れた。
「【
敵の陣中を歩いて行くのは流石に危険かもしれない。
大事の前にリスクはなるべく減らしておきたかった。
「なかなかスリルな体験じゃない?」
銀色の仮面を付けてハイテンションになったエリスは、イリュリア兵たちの上を通り抜けながら目をキラキラとさせていた。
「そうだな、これで徒歩なら尚更だろうよ」
「帰りはそうする?」
「ドゥラキウムを大人しくさせた後の凱旋か?悪くないかもな」
もう慣れてしまったのか、誰一人として必要以上に緊張してはいない。
「あれじゃないか?」
やがて眼前にはとりわけ大きな天幕が見えてきた。
「間違いないな」
僅かだが飾り立てられた見た目の天幕だから、ここでドゥラキウムは寝ているのだろう。
俺たちは天幕の前に降り立った。
「さて作戦は第二段階だな、【
結界を展開させた。
さぁドゥラキウム、これで落ち着いて話せそうだな―――――。
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