第77話 善は急げ

 †その場所は神すらも暴ける背理の境界、絶界プロセニアム


 これがどれほどの効果があるのものなのか少し試してみるか。


 「その場所は神すらも暴ける背理の境界、絶界プロセニアム


 視界に浮かび上がった白い文字のままに唱えると、周囲を取り込むように【神盾イージス】のような半透明の壁が構築された。

 まずは強度からだ。


 「リア、エリス、それぞれ物理攻撃と魔法攻撃をこの壁の外から放ってくれ」


 フォルセティで飛躍的に向上したエリスの魔法の威力に耐えられるのならかなり魔法耐性が高いと判断して良さそうだ。


 「わかったわ!研ぎ澄まされた力は処断の戦鎚、撃痕マイロナイト!」


 一撃で周囲の魔物を壊滅させるだけの威力の魔法に対して、【絶界プロセニアム】は、易々とそれを無効化した。


 「次はリアの番です!」

 

 コルネリアが鉄爪アイアンクローを力の限り振るうが甲高い音ともに跳ね返された。


 「むぅ……」


コルネリアは【絶界プロセニアム】を睨みつけると唸った。


 「次に、俺がこの魔法の効果範囲に入るから様子を見ていてくれ」


 術を行使した者は、問題なくその効果範囲に入れるらしくなんの抵抗もなく円形に展開された【絶界プロセニアム】の中心へと立った。


 「あれ、消えた!?」


 コルネリアが驚きの声をあげた。


 「ハルトが中に入ってから音も聞こえないわ……」


 なるほど……効果範囲外の音や姿を中から知ることは出来ても外からでは効果範囲内の様子は分からないというわけか。

 これは使えるな……。


 「さて、コイツを連れて乗り込むか」


 エリスたちに隊長格の男の捕縛を任せている間にイリュリア軍の陣中に潜入するためのプランを実行に移せそうだ。

 隠蔽魔法を行使して陣中へ潜入、ドゥラキウムを探し出し古代魔法の中から今しがた再現させた【絶界プロセニアム】による結界を張るのだ。

 その上でドゥラキウムの身を交渉材料としてでの直談判を行う。


 「ならまずは、コイツにドゥラキウムの居場所を吐かせればいいんだな?」


 ヒルデガルトは魔剣を男の首元へと突きつけた。


 「生殺与奪の権は私の手中だ、言え」


 有無も言わさぬヒルデガルトの気迫に、隊長格の男は震え上がった。


 「わ、わかった、言う、言うから!!彼奴らは郊外の東の森にいる!中央の大天幕がドゥラキウムの寝所のはずだ!」

 「どれくらいの護衛がいる?」


 気になることは全てヒルデガルトが訊いてくれそうだ。


 「いつもなら十人が常時見張りとしている!」

 「朝はいつ起きる?」

 「朝日が昇って小一時間くらいで給仕が朝食を持っていく」


 日の出までには感覚的に言えば、まだ余裕はあるということか。


 「善は急げという言葉が俺のいた国にはあってな。いいことはさっさと取り掛かれって意味だ。今夜やろう」


 差し向けた暗殺者達が帰ってこないとなればドゥラキウムは警戒するはずだ。

 それなら警戒する前に仕掛けてしまえばいい。


 「そうね、私の国からの救援要請を断ったあのクソ皇子に目にもの見せてくれるわよ!」


 エリスはそう意気込むとフォルセティをギュッと握った。

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