第76話 残念な暗殺者たち

 「連中、呑気に話してやがります」


 ドゥラキウムに春人のパーティ全員の暗殺を命じられたのは、イリュリアの裏の実行力とも言われる暗殺者ギルドのメンバーだった。


 「ふん、流石に我々の接近には気付けなんだか」


 彼らは、暗殺対象のいる部屋の扉から少し離れたところで小声で状況の確認をしていた。


 「しかも人数の気配で言えば二人だけじゃねぇ、他の連中もいそうですぜ」


 暗殺の成功を確信した彼らは、成功後の待遇に笑いが止まらなかった。


 「これでしばらくは遊んで暮らせるな」


 『暗殺者アサシン』を職業とする彼らは、魔法こそ使えなくても気配探知という固有の能力アビリティを持っていた。

 

 「さて、扉を蹴破ってご対面だ」


 隊長格の男が静かにそう告げると一人が、


 「連中は一人を除いて残りは女だ。ぐへっ……殺す前に拘束して美味しく頂いてもいいですかい?」


 下卑た笑みを浮かべて言うと、


 「それなら拉致する方が良いだろうな」

 「今にもはち切れちまいそうだぜ」


 男の股間はテントを張っていた。

 それを仲間が軽く小突いた。


 「おっ勃てたまま侵入する暗殺者があるかよ」

 「痛てぇなぁ、おい」


 これが彼らの日常だった。

 暗殺の成功が確実なら奪うも犯すも嬲り殺すも好き放題、ゆえに暗殺者ギルドは疎まれる存在なのだが、彼らはいつの時代も為政者からの需要があり存続し続けていた。


 「話は済んだか?行くぞ」


 隊長格の男は他とは違い獣欲を表には出さず冷静さを保っていた。


 「邪魔するぜ?」


 扉を蹴破って部屋へと侵入を果たすと彼らには四人の視線が突きささった。


 「こんばんは、暗殺者さんよ」


 春人の声とともに、蹴破った扉の両端から鉄爪アイアンクローと剣が突き出された。


 「なんでバレたんだよ、畜生!!」


 咄嗟に繰り出された剣を避けた戦闘の暗殺者は叫んだ。

 声を上げている時点で暗殺者アサシン失格だった。

 


 ◆❖◇◇❖◆


 「お前らは今日で廃業だ!!」


 ヒルデガルトは飛び下がった男に追撃の突きを放つ。

 鈍い音ともに血が飛び散った。

 

 「数的不利ではない、扉を境にしては一対一だ!」


 隊長格の男の声とともに、一人が両手に短剣を構えて突っ込んで来る。

 両手の短剣を交互に突き出してくるのだが、それはコルネリアの鉄爪アイアンクローによってことごとく無効化された。

 

 「こうなったら!!」


 男は一声上げると、防御をかなぐり捨てて俊敏な動作で突っ込んできた。


 「きゃっ!?」


 突然のことにコルネリアは上手くその攻撃を受けきれず悲鳴を上げる。

 だが男の繰り出した短剣は見えない壁に阻まれたかのように、甲高い金属音とともに弾かれた。

 【神盾イージス】が防いだのだ。

 

 「なんで、俺の剣が!?」


 男は不思議そうな顔を浮かべた。

 その一瞬の隙を逃すコルネリアは逃さない。

 

 「喰らいやがれなのです!!」


 無慈悲にも振り下ろされたアダマンタイト製の爪により男は深手を負いながら倒れた。

 そんな調子で隊長格の男を除く四人は血を流しながら床に這い蹲ることとなった。


 「残りはお前一人だ。どうする?ちなみに逃げるという選択肢はないぞ?」


 既にイングナ・フレイに魔力を纏わせてすぐにも殺せる用意は出来ている。

 

 「降伏するか死ぬかの二択か……俺は雇用主のために命を散らす気はない」


 隊長格の男はあっさりと構えた剣を床へと捨ててみせた。

 

 「そのまま手を上に上げろ」


 体術が得意だとすれば、近づいた瞬間にこちらが不意打ちを受けることになるだろうから、最後まで油断はしない。


 「エリス、やってくれ」

 「わかったわ!」


 エリスはフォルセティを構えると魔力を纏わせて詠唱を唱えた。


 「何人なんぴとたりとも逃れることは叶わぬ、拘束バインド


 男を縛り上げる半透明の縄が現れ手首と足とを縛り上げた。

 

 「さてお前にはしてもらうことが山ほどある」

 「情報ならなんでもくれてやる」


 男はふてぶてしくそう言った。


 「もちろんそれもしてもらうことの一つだがその前に、金を寄越せ」

 

 部屋の前の廊下に敷かれたマットは血に汚れ、壁もまた所々赤く染っている。

 部屋の扉は壊れているし、弁償を求められることは間違いない。


 「尻の毛までむしり取ろうってのかよ」

 「修理代さ」


 俺は、亡骸となった彼の部下の懐や腰元を漁った。

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