第75話 迫る敵

 アルジスに聞いたところ、やはりドゥラキウムの目的は俺たちの討伐なのだという。

 

 「やっぱり竜人族の里を離れて正解だったわね」


 竜人族を守るためにイリュリア軍の前に立ちはだかったという経緯があるわけだが、今の彼らの狙いは竜人族の里や資源というよりかは俺たちにあった。


 「伝承の勇者よりも強い存在ともなれば生かしておけない、というわけか」


 ヒルデガルトが魔剣を磨きながらそう言うと、最後には一笑に付した。

 

 「ふん、全くもってくだらない、貴族らしい考え方だな」


 ヒルデガルトの言う通りで、勇者という存在を活かしてイリュリアの影響力を拡大させることがおそらくドゥラキウムの狙いなのだろう。

 そのために、不要な存在は消したいというわけか。


 「このまま放っておけば、解放したシュヴェリーン領まで掠め取られそうだな」

 

 領土に対する欲を捨てきれず竜人族の里に攻め込むような連中だ、せっかくシュヴェリーン公国領を解放したところで難癖つけて没収しようとするに違いない。


 「だったらどうにかして彼らを遠ざけてしまいたいのだけれど?」

 「一戦やむ無しか……姫にその覚悟があるのなら付き合うまで」


 二人の主従に一人として制止役はいないらしい。


 「でもさすがに三千の兵は多いわ……」


 この場にいる全員を合わせたって数の上では四対三千。

  多勢に無勢もいいところだ。


 「それに人を殺すのは何だか違う気もするし……もっと穏便なやり方はないかしら?」


 敵となった連中を殺すことに躊躇いを覚えないつもりではいるが、人を殺すことに未だ不慣れな俺もまた、全てが終わったあとできっと罪悪感に浸るのだろう。

 それに兵士たちは命令に従ってるのであって自分の意思であるかは定かではないのだから余計にだ。

 俺やエリス、ヒルデガルトが頭を悩ませているとヒルデガルトが不意に立ち上がって床に耳を当てた。


 「何人かが階段を駆け上がってくるのです!」

 

 俺の耳には聞こえないが……やはり獣人の聴覚は鋭い……か。


 「どうやらこちらから手出ししなくてもいいらしいな」


 とりあえず相手の出方を見るためにもまずは【神盾イージス】でも使うか。


 「リアとヒルデガルトで扉の前を固めてくれ!迎撃用意だ」


 相手に気取られている時点で不意打ちを狙って仕掛ける側は、完全に不利になってるわけだ。

 故に慌てることは無い、そう自分に心の中で言い聞かせた。


 「なぁエリス、いつもの調子で会話をしよう」

 「こんなときになぜ!?」

 「普通に会話してる方が相手も入りやすいだろ?」


 敢えて相手を誘う。

 そして引き込んだ敵はなるべく生け捕りにして洗いざらい情報を吐かせようか。


 「なっ!?」

 「ほらほら、なんでもいいから」

 「なんでもいいって言われると難しいわね……」


 それなら話題を振るか。


 「なら故郷について聞かせてくれよ」

 「故郷?いいけど……」


 扉の前で鉄爪アイアンクローを構えるコルネリアを確認すると、扉の外を指さしていた。

 お客さんのお出ましか!!

 無意識のうちに緊張しているらしく、【神盾イージス】に込めた魔力が自然と強くなった―――――。

 

 「――――それでね?って聞いてる!?」


 エリスも少しばかり芝居を打つのに気合いが入っている。


 「あぁ、悪いな、眠くなってきてな」

 「んもうっ、話を振ったのはそっちじゃん!」


 弛緩しきった会話という餌に静かに迫る敵は―――――食いついた。

 激しい音ともに扉がくだけ金具が飛び散る。

 戦闘開始の合図だった。

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