第74話 イリュリアの目的
「なっ……!?銀仮面の英雄様!?」
街の門を守る守衛はこちらの姿に気付いたのか声を上げた。
「申し訳ないですが、通行許可証はお持ちですか?無ければ発行も可能ですが、その際は身分証明になるものを―――――」
「これでいいか?」
俺はアルジスから渡されたカードを手渡した。
そこにはケルテン王国の紋章が刻まれており、アルジスのサインも入っていた。
「これは!?し、失礼しました!!」
「職務を全うしてるのだから謝る必要は無い」
エリス達と共にもんを潜ると、早くも騒ぎになった。
「一先ずはアルジスに面会でも求めて、イリュリア軍の目的を教えて貰うとしよう」
俺の言葉にヒルデガルトは通りの向こうを指さした。
「向こうはそうさせてくれないらしいが?」
指の示す先に視線をやると、豪奢な甲冑に身を包んだ男たちが歩いて来ていた。
「……あれはイリュリア軍の連中だ」
イリュリアの王都が襲われたあの日、俺は彼らの姿を戦場で見ていた。
「どうするのよ!?」
「関わらなきゃいいんだろう?俺に触れてくれ」
一隊を率いて通りを横いっぱいに広がりながら歩いてくる連中は、おそらく俺たちを通すつもりは無いのだろう。
「わかったわ」
衆目の前で使うことは避けたいが、致し方ないか……。
「お前ら、そこで止まりな!!」
イリュリアの連中はすぐそこまで来ており、居高気な口調で声をかけてきた。
「アルジスの元まで飛ぶぞ、【
目的地は以前、アルジスと面会した部屋だ。
「なっ、待て!!」
「怪しげな魔法を使いおって!!」
彼らの怒鳴り声を置き去りにして俺たちは、その場から文字通り消えた。
◆❖◇◇❖◆
「――――それはまことか!?」
「如何にも、我々の行軍の邪魔だてを――――なぜお前たちがここに!?」
来たはいいが、どうやら重要な話の最中だったらしいな。
「いやなに、自国の都合で勝手に竜人族の里に立ち入った不法侵入者共を追い払った報告をしに来たところだが」
召喚されたあの日、あの場所に居合わせていたのはオルテリーゼのみではなく国王の代理を務めるドゥラキウムもまた居合わせていたのだ。
登壇してご丁寧にもお言葉を勇者たちに授けていたのを覚えている。
「聞いていた話と違うな」
不審そうな顔でアルジスはドゥラキウムを見つめた。
「あの貴族でもない男の妄言を信じるとでも?」
真実を明かされてもなお悪びれもせず、白を切って見せるほどにはドゥラキウムも肝が据わっているらしい。
「アルジス宰相がどんな話を聞かされたのかは知らないが、イリュリア軍は竜人族の領域に埋蔵されている希少鉱物欲しさに侵攻したのは明白。勇者パーティを用いて多くの竜人族を殺し、里を焼き払っていたのはこの目で確認した」
俺の言葉にドゥラキウムは顔を顰めた。
「重ねて聞くがドゥラキウム殿、これは事実なのか?」
「ドラゴンが魔族の仕向けた軍隊に混じっていたが故に攻めたまでよ」
「たった一人の、それも自身の意思とは関係なしに魔族の使役魔法により操られていた竜人族がいた、それだけの理由で勇者を動員しての侵攻とは面白いことを言うな」
「我々の勇者たちが襲われたのだぞ?それくらいして当たり前だ」
ドゥラキウムの表情に現れる僅かな焦り、さすがに効いたか。
「だが傷一つ負っちゃいないはずだ。俺たちのパーティが守ったのだからな。その借りを忘れて俺たちを討とうというのは恩知らずにも程があるんじゃないのか?」
もう一歩、核心へと踏み込む。
俺たちがこの部屋へ来たときに聞こえた会話で彼らの目的など丸わかりだ。
「アルジス宰相、イリュリアの連中の言うことを簡単に信じるのは良くないぞ?」
ドゥラキウムは舌打ちを一つ、俺に一瞥をくれると立ち上がって部屋を去った。
「危うく信じてしまうところだった。またしても助けられたな」
イリュリア軍の目的を聞きに来たのだが、どうやら聞くまでもなかったらしい。
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