第73話 しばしの別れ
「本当に行くのじゃな……」
何処か悲しげな瞳でエヴァは俺たちを見つめた。
標高が周囲に比べて高い竜人族の里は、ようやく東の空が白んだ早朝では肌寒い。
「なに今生の別れになるわけでもなし、心配すんな」
「そうじゃな、妾も約束を果たさねばならぬからの、死んでもらっては困る」
俺やエヴァが言葉を交わす傍らでは、
「リアお姉ちゃん、必ず戻って来てね!」
「お兄ちゃんやお姉ちゃんがいるので大丈夫なのです!!……多分?」
コルネリアもまた見送りに来た竜人族の少女と手を握りあっていた。
一頻り互いに言葉を交わし終えたところで、イングナ・フレイに魔力を纏わせた。
「みんな、いいか?」
三人は俺の言葉に頷いた。
そして三人は俺の身体に触れた。
「い、いつも慣れないわね……」
むんずと手を掴んだヒルデガルトとは対照的に、エリスはおずおずと俺の手を掴んだ。
「まぁこれしか方法ないから我慢してくれ」
「ち、違うの……なんて言うか恥ずかしいのよ!」
エリスは頬を赤らめながら言った。
するとヒルデガルトが「分かってやれよ」と無言の圧を発し、コルネリアも
「お兄ちゃんの鬼畜……」
とジト目で俺を見つめた。
「行くぞ【
漂うなんとも言えない空気感、それを振り払うように【
◆❖◇◇❖◆
「とーちゃくなのです!」
目的地はクラーゲンフルト郊外の森にしておいた。
「本当に一瞬だな」
「規格外だわ」
この世界に来て何度目か分からない【
身内とも言えるエリスたちの前では躊躇いなく使うが、余人の前では使わないよう心掛けているし、転移先もまた人に遭遇しないような場所を選んでいる。
「リア、姿を変えるがいいか?」
目的は、イリュリア軍が俺達に手出し出来ないようにするためだ。
ケルテン国内では、吟遊詩人らの働きもあって、俺たちの存在は英雄的なものになっている。
これを逆手にとって利用させてもらうのだ。
「大丈夫です!」
全幅の信頼を置いてくれているのか、コルネリアは目を瞑った。
「【
光とともに大人びた容姿のコルネリアが現れた。
でもその姿は成長後の彼女ではなく俺の想像したコルネリアの姿にすぎない。
これで声が年相応ならなお良いのだが……
「不思議な感覚なのです!」
声は相変わらず幼いままだった。
声だけは幻視で見せられた彼女の口元から出ているので、発声場所としては何ら違和感がないから俺からしても不思議だ。
「さて、準備も整ったし行こうか」
銀色の仮面で素顔を隠しローブを目深に被ればこれで素性の隠蔽については問題ない。
「ふふ、影の英雄の再臨ね!」
仮面をしたエリスは、どういうわけか相変わらずのハイテンション状態になっていた。
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