第71話 ドゥラキウム来援

 「はん、四人程度に勇者パーティが負けただと?馬鹿も休み休み言え!」


 ドゥラキウムの声は不機嫌そのもので、オルテリーゼの報告を鼻で笑った。

 

 「事実だと申し上げていますわ!勇者パーティの護衛たちも竜人族の里への侵攻に失敗し被害甚大、ここは一時的な帰国を具申します」


 救国の伝承にある勇者という存在、それがたかだか四人のパーティに敗北する様を目撃した護衛たちは戦意を喪失していた。

 加えてオルテリーゼは箝口令かんこうれいを下した。

 口外しようものなら勇者を召喚し、外交材料として大きく喧伝する王家の信用は失墜し、果てには王権の失墜を招きかねないということを懸念してのことだった。


 「ふん、そこまで言うのなら俺が直々に出向いて見定めてやろうじゃないか」

 

 ドゥラキウムは言外に殺害という選択肢があるのだと告げた。


 「おやめ下さいまし!私もこの目で確認致しました!神であらせられるヘルメス様が二人の勇者に与え給えた力を、なかったことにする、 などという人外めいた力の持ち主です!」

 「そんなこと、人の身で出来るはずがなかろう。その者に魔族の疑いがあるのなら、尚更生かしておくわけにはいかん」


 通信媒体の水晶球越しに聞こえる兄ドゥラキウムの言葉に、聞こえることのないようオルテリーゼはため息を吐いた。


 「そこまでおっしゃるのならお好きなようになされませ。一応、私はお止めましたから……」


 言っても聞かないのならと匙を投げたオルテリーゼにドゥラキウムは一言、


 「臆したか……情けない」


 そう言い残して、会話は終わった。


 「私とて苦々しく思っていますわ!でも今の勇者たちでは太刀打ちできませんものっ!!」


 一人独白するオルテリーゼは手にしていたケルテン王国からの親書を忸怩たる思いからか、握りつぶしたのだった。


 ◆❖◇◇❖◆


 竜人族の里での戦闘から二週間――――


 「イリュリア王国第一皇子ドゥラキウムが三千の軍勢とともにケルテン入りしたらしいのじゃ!」


 人族とは隔絶したこの里にも、希少鉱物の取引により外界の情報は入ってくる。


 「再侵攻かしら?」

 

 エリスの示した可能性は、確かに有り得る話だ。

 

 「いつから来てるんだ?」

 「昨日の五日前だというのじゃ」


 竜人族の者たちが取引にクラーゲンフルトに向かったのが昨日、そして今日その情報を持ち帰ってきている。

 

 「あまりにも動きがない所を見るに、何かを待っているんじゃないか?」

 

 考えられる例としては――――俺たちだ。

 おそらく竜人族の里への侵攻に失敗したオルテリーゼは、俺たちの存在をイリュリアの国王代理を務める第一皇子に報告しているはずだ。

  となれば俺たちに対しては潜在的脅威という認識をもっていてもおかしくは無い。

 

 「俺たちは、竜人族の里を出る方がいいかもしれんな」


 エリスとヒルデガルトも考えは同じなのか、頷いた。

 コルネリアは、少し離れたところで竜人族の子供と走り回っているのでこの場にはいない。


 「どういうことなのじゃ?」


 エヴァの疑問にはヒルデガルトが答えてくれた。


 「連中の狙いは、私たちということだ。故にこの場に留まれば貴方方に迷惑がかかる」


 その言葉を聞いたエヴァは、しばらく黙り込んだ。


 「すまぬが妾にしてやれることは何もないやもしれん」


 エヴァは申し訳なさそうにそう言うと、遊ばせていた尻尾をだらんと下げた。


 「この里を守ることがエヴァの務め、俺たちのことは気にするな」


 元々、なんとなくこうなる気はしていたからな。

 それが予想より早まっただけの話だ。


 「明日の朝、この里を出よう」

 「そうね、早ければ早いに越したことは無いわ」

 

 迷惑をかけまいという考えは三人とも同じだった。

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