第68話 発想の転換

 「【神盾イージス】!!」


 相沢の剣は魔法攻撃を無効化するのならば、魔法攻撃だけではなく物理攻撃を無効化する【神盾イージス】の魔法は、一定の効果があるのでは?という発想に基づき俺は方針を変えた。


 「今さら防御魔法を行使したって遅いんだよっ!」


 相沢は大きく振りかぶった剣を【神盾イージス】へと突き立てた。

 キィィィィィィン!という鋭い音とともに相沢は吹っ飛んだ。


 「な、なんで効かないんだよっ!?」


 不機嫌そうに怒鳴り散らした相沢は木へと激しく衝突し血反吐を吐いた。


 「何をした倉見!!」


 状況を見て相沢の隣へと飛び下がった天童はまるで俺が不正をしたとでも言いたげだった。


 「攻撃魔法ではなく防御魔法による攻撃に切り替えただけだ」


 攻撃は攻撃魔法で行うという固定概念をとっぱらって防御魔法を攻撃手段に転用するという新たな試み。

 このまま押し切れるか……?


 「なっ……そんなのありかよっ!」

 

 不機嫌に言い放つと天童は剣を構え直した。

 

 「俺にとってもある種賭けだったが、例外というのは付き物らしいな」


 相沢の剣に付与された魔法耐性の効果は、どうやらあらゆる魔法攻撃や物理攻撃を無効化するという【神盾イージス】の効果が適用される範囲内だったということらしい。

 もちろん限度はあって威力がある程度の強さの場合、【神盾イージス】の魔法が意味をなさないことは俺も知っている。

 

 なぁエステル……他者に与えられた力を引き剥がすことは可能か?例えば俺がエステルに貰った力を引き剥がすみたいなやつだ。

 相沢や天童がどこかの神に力を貰ったとするならば、それを無かったことにすることで元に戻してやることが出来るはずだ。

 さっき俺は、二人を殺す覚悟を決めるべきなのかもしれないと考えたが、やはり彼らには人族の勇者でいてもらうが余程都合がいい。

 失われた国々の国土の解放という使命を帯びた彼らに魔物や魔族と戦ってもらうその間に俺たちは目的を果たすのだ。

 全部を俺たちでやるよりかは余程楽なはずだ。

 彼らを元に戻してやることで、勇者パーティはメンバーの実力の均衡を取り戻し十全に機能していけるだろう。

 それに俺たちの邪魔することも無くなるはずだ。

 何故なら、俺たちに届く可能性が乏しいという現実に気付くことになるだろうからだ。


 †特定の物体の時間を戻すことにより状態もまた戻すことが可能†


 ならその魔法を教えてくれ。

 想像する光景は、ドラゴンの襲来した際の彼らだ。

 おそらくその時には神による介入はなかったはず……。

 

 †時は戻りて輪廻は回る、【刻生遡行アナンケ】†


 輪廻、か……大層な言葉だな。


 「……ハァ……ハァ……この剣に、この力に倒せないものなんてあるのかよ!?」


 俺が古代魔法の再現に勤しむ間、剣を振り続けていた天童は肩で息をしながら、信じられないものを見るような目で俺を見た。


 「気は済んだか?」


 俺の言葉に二人は何も返さず、ただ睨みつけるばかりだった。


 「これからお前たちの時間を戻す。これからはその職業の力を正しいことに使え」

 「嫌だ、この力で俺はお前を倒して詩織を取り戻すんだ!!」

 

 血が滲むほどに唇を噛みながら相沢は力を失うことを拒んだ。


 「そうだ、俺はお前を認めないっ!」


 天童もまた相沢同様、拒絶した。


 「なに職業まで無くなるわけじゃない。記憶が少し前に戻るだけだ」


 イングナ・フレイに魔力を纏わせた。

 彼らの拒絶など、知ったことじゃない。


 「時は戻りて輪廻は回る、【刻生遡行アナンケ】」


 躊躇いもなく二人の時間を戻す魔法を行使した――――。

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