第67話 疑いもせず

 「【氷牙貫穿グラキエースアクス】」


 とりあえずは魔法で様子見だ。

 どの程度の実力かも分からないのに近接戦に持ち込まれれば、こちらも無事では済まないだろう。


 「魔法攻撃など、この魔剣があれば!!」


 相沢は【氷牙貫穿グラキエースアクス】を切り裂いてみせた。

 切り裂かれたそれは、明後日の方向へと飛んでいく。

 なるほど魔法を無効化する効果或いは、魔力を物質へと形質を変化させ切り裂くことを可能にするといったところか。

 だが厄介なのは魔剣の能力では無く運動能力の方だ。

 どこまで対応できるか試してみるとするか……。

 魔杖イングナ・フレイに魔力を集めて次の魔法を行使する。


 「【獄牙制滅スプレシオ】」


 数の暴力とも言えるこの攻撃魔法を何処まで捌き続けられるか……。

 

 「おいおい、魔法は俺には――――って何だよ、この数は!?」


 イングナ・フレイを用いることで威力も数も増した【獄牙制滅スプレシオ】。


 「お前ら、防御魔法を出せよ!」


 クラスメイトたちに対して自分が目上であるかのような言葉遣いで相沢は防御魔法を要求した。


 「僕も手伝うよ!」


 天童が剣を抜いて相沢の隣に立った。

 

 「くっそ、なんて数だ!」

 「さすがに庇いきれねぇ!」


 二人は剣を自分の前に構えて自身に直接命中するであろう攻撃のみを捌き始めた。

 つまりは他の攻撃が後ろに控える勇者パーティのメンバーたちに当たるわけで――――


 「きゃぁっ!!」

 「俺たちはクラスメイトじゃねぇのかよ!?」


 チッ……面倒なッ!!

 他の勇者たちは【聖護ホーリー・プロテクション】により辛うじて【獄牙制滅スプレシオ】から身を守ることが出来ている。

 乱発する魔法なだけあって威力は大きくはないが、それでもイングナ・フレイにより強化された【獄牙制滅スプレシオ】を防ぐくらいには勇者パーティの『魔術師メイジ』たちは力をつけているということか……。

 

 「どうした、もう終わりかよ」


 【獄牙制滅スプレシオ】による攻撃を捌ききった相沢が得意そうな顔を俺へと向けた。

 

 「神の力を借りながら仲間を人質にとる戦い方にには反吐が出る。勇者らしくもない低俗なやり方だと思っただけだ」

 

 大方この男は、自身と天童とが力を持ってしまったが故に、仲間のことはもはや使えない肉壁ぐらいにしか思っていないのかもしれない。


 「それがなんだ?勝てばいいんだよ!」


 相沢は悪びれることすらなかった。

 仲間の前でそう言い切ってしまう時点で増長慢となっているのは明白か……。

 その点、天童は思うところあるのか何も口にはしない。

 そしてやや気まずいのか話題を変えてきた。


 「倉見、お前はなぜそれほどの力を持ちながら勇者パーティに戻らないんだ!?」

 「そんなこと聞くまでもないだろう?お前たちにとって俺は何だ?」


 散々無能呼ばわりしてきたくせに。

 大人気ないと言われればそれまでだが俺は割と根に持っている。


 「大事なクラスメイトに決まってるだろう!?」


 今さらクラスメイトか……。

 クラスメイトという言葉に含まれる意味は、友達でも親友でもないやつに使う言葉だ。


 「勇者になったからっていい人ぶってんじゃねぇよ。元いた世界でお前たちは俺を何と呼んだ?こっちに来て俺が無職だと判定されたときお前たちは俺を何と呼んだ?」

 「……ならなぜ倉見はそんな力を持っている?そして今、俺たちの前に立ちはだかっている?」


 なるほど、過去の自身の言葉は覆らないと判断したわけか。


 「二つ目の質問から答えようか。お前たちはなぜ竜人の里を襲っているか知っているか?」

 「倉見も見ただろう?魔族に味方したからだ」


 何処までも盲目的で目の前の事実を疑いもしないらしい。


 「それがたった一人の竜人族のせいだとしても全体を悪と決めつけるのか?」

 「それが竜人族の総意でないと言える理由はないじゃないか!!」


 やはり、魔族に味方したから滅ぼせと命じられているのだろう。


 「なら教えてやろう。魔族に味方した一人は自身の得た力に随分得意になっていたらしい。まるでどっかの誰かみたいだな。そして彼は他の竜人族の静止に耳を貸さず竜人族の里を出たそうだ。そして魔族に使役された。実際に俺はドラゴンの頭部に使役のための魔法陣を確認している」

 

 俺が事実を語ると天童や相沢は俺を睨みつけた。

 

 「それじゃまるで僕たちが本当のことを知らずに踊らされているみたいじゃないか!?」

 「その通りだと言っている。だが竜人族の里に侵攻した理由はそれだけじゃない。一つは竜人族の特異的な立場に、そしてもう一つは竜人族の持つ希少鉱物資源にある。竜人族は昔から人族にも魔族にも与せず独自の繁栄を築いてきた。大方、イリュリア王国或いは人族の統治する諸国の為政者たちはそれを帰趨のはっきりしない勢力として脅威に感じていたのだろう」


 そこに飛び込んだ竜人族の一人が魔族に味方していたという情報。

 侵攻の大義を得た、とでも考えたのだろう。

 もっとも勇者パーティの護衛としてケルテンの軍や冒険者が随伴していない所を見るにイリュリア王国単体の意思であるのだろうが。


 「つぎに竜人族が外貨獲得のために取引する希少鉱物についてだ。これらは良質で高く取引されていると聞く。これを奪ってしまえば財源として活用することができるわけだ。どこまでも人族の都合だろう?」


 何から何までが自分本位な考え方なのだ。


 「俺たちは竜人族の族長代理に頼まれて竜人族を守るため、すなわち攻め込んできたお前たちを排除するためにここにいる」

 「そんなことをして何になる!?俺たちを殺せば世界がどうなるかわかっているのか!?」


 世界ねぇ……ぶっちゃけ今のお前たちより強い人間は数多いるだろうよ。

 現に相沢と天童を除けば、他の勇者パーティメンバーはエリスたちだけで片付けられるはずだ。


 「その世界とやらに魔族や竜人族は含まれているのか?」

 「今さら何を言うかと言えば巫山戯ているのか!?」


 天童は口角泡を飛ばす勢いで怒鳴った。


 「それが一つ目の答えだ。俺の目指すところはお前たちとは違うということさ。それを実現するために俺はこの力を託された。もうお喋りのこの辺でいいだろう?」


 優しい世界を作る、その実現のために託された力を人族だけの尺度に合わせて使うことは望ましくない。


 「やっぱりコイツ、言ってることおかしいぜ?」


 相沢は剣を構え直した。


 「そうだな……倉見、お前とはここでお別れだ」


 天童もまた剣先を俺へと向ける。


 「そうだな……出来ればもう会いたくもない」


 俺もコイツらを殺す覚悟を決めるときなのかもしれないな――――。

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