第64話 驕る者たち

 「何用カ、小サキ者タチヨ?」


 勇者パーティの前に立ちはだかったのは、一匹のドラゴンだった。


 「お前達は、魔族に協力した人族の敵だ!だから滅ぼしに来た!」


 『勇者ブレイバー』である天童は、声も高らかに宣言した。


 「随分ト勝手ナ解釈ダナ」


 ドラゴンはため息とも取れる重たい息を吐ドラゴンと人族とが国境と定める線を跨いだ。


 「蜥蜴風情がよォ!!」


 だが相沢はそんなドラゴンの心意など汲み取りはせず、ドラゴンに対して最大の侮辱となるの言葉を浴びせた。

 それが竜人族の里、グルクタールアルプス山麓への勇者及びイリュリア軍の侵攻の始まりだった。

 怒りに目を見開いたドラゴンは吼えた。


 「オノレ小癪ナ!!」


 鋭い鉤爪を相沢へと繰り出す。

 

 「図体デカいだけかよw」


 相沢は、神を名乗る少年から受け取った力により格段に引き上げられた瞬発力を活かしてそれを交わす。


 「何故、人族如キガ避ケルコトガ出来ル!?」


 蜥蜴という言葉に怒りを覚えた以上に目を見開いたドラゴンは、それ以上の言葉を口にすることは無かった。


 「頭がお留守だな!」


 同じく力を貰った天童が高められた跳躍力をもってドラゴンの頭に飛び乗り、目を貫いたのだった。


 「Gryaaaa!!」


 痛みに悶絶しながら倒れるドラゴンに、勇者パーティの残りが、イリュリア軍の兵士達が群がりトドメとばかりに攻撃を加えていく。

 まもなくドラゴンは息絶えた。


 「ドラゴンと言ってもこの力の前には大したこと無いな。龍也、守りは任せた!」


 天童は感慨深そうにドラゴンの目を貫いた自らの手を見つめた。


 「あいよ!このまま狩りまくって素材で一儲けしようぜ!!」


 攻撃特化の職業、それが『勇者ブレイバー』、守りの剣と攻めの剣を使い分ける『剣士フェンサー』。

 神を名乗る少年から力を受け取った二人による蹂躙が始まるのだった――――。


 ◆❖◇◇❖◆


 「『勇者ブレイバー』と『剣士フェンサー』を前面に勇者パーティは竜人族の里へと侵入したと聞く。これにどう対応するのか皆の意見を聞きたいのじゃ」

 

 病に伏せっている族長に代わって代理を務めるエヴァ・シルグリアの元に竜人族の重鎮が集まっていた。


 「国境を守る守備隊は壊滅したと聞く。敵を引き込む要因を作ったシェリドの馬鹿野郎は死んじまっているときた。実力者不在の今、我らに何が出来ようか!?」


 竜人族一番の実力者、シェリド・シルグリアは魔族に尻尾を振った挙句の果てに春人たちによって討伐されていた。


 「かくなる上は我らの全力を賭して勇者パーティに立ち向かうのみ!」

 「如何に総力を上げたとしても守備隊は勇者パーティの二人相手に敗北したのだぞ!?」

 「ならば数で押せば問題あるまいて!」

 「その数ですらあてにならないと言っているのだ!希望的観測で命を危険に晒すなど以ての外だ!」

 「何だと貴様ァァァッ!?」


 議論は紛糾し一向に纏まる様子を見せない。

 それどころか竜人族の重鎮たちは仲間割れを起こし始めた。

 そんな様子を見るに見兼ねた、エヴァは大きく咳払いをして、一同を黙らせた。


 「この際だ、つまらぬ矜恃など捨てて妾の話を聞け」


 エヴァは、先日会ったばかりの人間達に一つの希望を見出した。

 

 「妾はシェリドを倒したもの達の力を借りようと思うが……どうじゃ?」


 人の力を借りるという予想外の提案に、重鎮たちは沈黙を余儀なくされた。


 「……あのシェリドを倒した者たちならば或いは我々の窮地を打開してくれるやもしれん」

 「人の手を頼るなど言語道断!」


 肯定する者、矜恃を捨てられぬ者と反応は様々だ。


 「ご一同、妾はつまらぬ矜恃など捨ててしまえ、と言ったはずじゃが?」


 心胆寒からしめる程の冷たい声で、エヴァは言った。

 族長の娘であり、族長代理であるエヴァの言葉にその場にいた誰もが矜恃を捨てざるを得なかった。


 「決まったようじゃな。これより妾は協力を仰ぎに向かうつもりじゃ。カティサーク、お主は同胞はらからを率いてグルクタールの山中へ避難しろ。異論は認めん」


 強い言葉で、エヴァは自身の提案に最初に賛同した竜人に命令した。


 「他の者たちもじゃ。妾が戻るまでの間、一人たりとも仲間を死なすな!」


 エヴァはそう言い残して中庭に移動すると、そのまま夜空へと飛び立った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る