第63話 半信半疑

 『勇者パーティ、フィラハの街を解放』

 『コウの『勇者ブレイバー』の力とリュウヤの剣はライヒェナウを奪還』


 連日の勇者パーティの勝利と旧領奪還にクラーゲンフルトの街は沸いていた。


 「なんだか、このままシュヴェリーンも奪還して貰えそうだな」


 今日も今日とて魔物討伐。

 過日の魔物の侵攻以降、散り散りとなった魔物が国内各所に出没するため、俺たちは魔物討伐にいそしむようになった。

 それが変わらない日常となったわけだ。


 「ハルトは、最近の勇者の活躍を怪しいと思わないわけ?」


 確かに最近になって、めきめきと力をつけ始めたらしいがきっと俺たちの入れた喝が効いたのだろう―――――そう考える程、俺も楽観的じゃない。


 「詩織のヴァンパイア化といい、どうやら見えない力が働いているかもしれないな」


 魔族が関わっていると仮定して、勇者として守られていたはずの詩織に接触することが出来ただろうか……?

 その疑問の答えが否だとするならば、エステルが死の間際に俺に接触したように神による接触が行われた可能性が考えられる。

 あの日、俺とエステルの接触が露見しなかったように神族には、人の目を掻い潜ることが出来る何かがあるのだろう。


 「例えば、どんな力よ」

 「そうだなぁ……神とかだな」

 「それが本当だとしたら、人族の勝ちは揺らがないんじゃない?」


 単純に考えるのなら、そういう予想で良いのかもしれない。

 だが詩織のヴァンパイア化が神の介入によるものだとするのなら、なぜ人族を勝たせるのにそんなことをするのかという疑問にぶつかる。

 なぁエステル、神が人族を勝たせようとする、そんなことがあるのか?

 あるとするなら随分と俺たちにとって都合のいい連中だ。

 

 †神族は利権争いに余念のない種族。自分の秩序の及ぶ利権を拡大させる為ならば魔族にも人族にも力を与えることがある。また、一部の神においては人族と魔族間での戦争を長引かせることで既得権益を守る者もいる†


 浮かび上がった白い文字は、予想を裏切らないものだった。

 やはり人族を勝たせるつもりなどは無い。

 複雑に絡み合った神々の思惑の上に今の大戦があるのだ。

 つまりは何処かしらの神が相沢や天童に力を与えた、と考えるのが妥当ということなのだろう。


 「いや、わからん。これ迄の歴史には人族と魔族、その両方に神々が関わっている節があるからな」


 創造神エステルの知識と力を宿していることは、エリスやヒルデガルト、コルネリアには話していない。

 だから俺は、さも知っていたような口ぶりで言った。


 「確かにな。人族を勝たせるつもりがあるのなら、大戦はこうも長引きはしないだろう」


 それまで黙って話を聞いていたヒルデガルトは、真剣な面持ちで俺の考えを肯定してくれた。

 そして最後に吐き捨てるように言った。


 「食えない連中だな」


 全くもってその通りだと同意せざるを得なかった――――。

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