第62話 仲直り

 「はぁ……はぁ……見つけた」


 アステリドの花が一面に咲きほこる丘の上にいた。

 人目につく街中で【飛行フルーク】の魔法を使うわけには行かず、魔力ドカ食いの探知魔法を行使しながら俺は街を走った。

 中央広場にほど近い時計台や、城壁の一般解放区画など、ヒルデガルトのアドバイスにあった高い場所は全て回った。

 そして最後に辿り着いたのがこと、街を一望出来る丘だった。


 「見つかっちゃったか……謝らなきゃいけないじゃん」


 俺の声に気付いたのかエリスはこちらを向いた。

 喧嘩別れみたいな形だった先程の表情からは想像できない柔和な顔をしていた。


 「俺も悪かった……ヒルデガルトとコルネリアに言われてようやくわかったよ」

 「私も言い過ぎたわ、ごめん」


 互いに謝りあって俯いたせいか、ひたいぶつかった。

 艶めいた唇と端正な顔立ちのエリスが視界いっぱいに映った。

 無意識のうちに高鳴り出す心臓。

 今まで意識したこともなかったが、どういうわけか俺の目はエリスに奪われていた。


 「あんまりジロジロ見ないでよ……恥ずかしいんだから」


 微かに顔を赤らめるとエリスはそっぽを向いた。

 それを名残惜しいと心のどこかで思っているのだろうか不思議と目で追ってしまう。


 「わ、悪かったな……」

 「人の顔、不躾に見るのは良くないって教わらなかったの?」


 苦言を呈するように言ったエリスだが、どこか言葉の歯切れが悪く説得力が無かった。


 「綺麗だったからしょうがないだろ……」


 俺は悪かったと素直に内心を吐露した。

 するとエリスはそれまで以上に顔を赤くさせた。

 そして一人で丘を降り始めた。


 「な、何言ってるのよこのバカ!!」


 そう言うとぐわっと俺の方を見たエリスは、そのまま俺の方へ近付くとそっと俺の頬に口付けした。

 その感触を記憶に刻もうとばかりに熱くなる頬。


 「い、今のは……?」


 そっと啄むような感触に変な誤解をしてしまいそうだった。

 例えそれが頬だとしても、それ以上の意味を持たないのだとしても嬉しくならないわけがなかった。


 「な、仲直りのキスよ!それ以上でもそれ以下でも無いんだから!」


 激しくまくし立てて、エリスはズカズカと丘を降り始めた。


 宿に戻ったところで、


 「何かあったのか?二人とも顔が赤いようだが?」


 と全てを見透かしたようにニヤニヤしたヒルデガルトが出迎えてくれた。


 「う、運動しただけよ?」


 同意しなさいとばかりにエリスが圧を込めた視線を俺に送る。


 「エリスの言う通りだ!何しろ丘の上にいたからな」


 エリスに追従するとヒルデガルトは、笑顔を浮かべて


 「そうかそうか。まぁ例え口付けくらいしてたとしても仲直り出来たのならそれに越したことは無いな」


 どこまで見透かしているんだ、この騎士は……。

 ヒルデガルトの末恐ろしい程の洞察力にあっという間に頬の熱は冷めたのだった。

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