第61話 新たな遊戯

 「どうしてアイツか生きてるんだよっ!!あの力は何処で手に入れたんだよっ!」


 お前のせいで俺達は恥をかいて、詩織は吸血鬼ヴァンパイアみたいになって消えちまったんだよ!


 「龍也、それ以上はやめとけ」

 「きらは、アイツに何にも思わねぇのかよっ!」


 力さえあれば、機会さえあれば俺は殺してやりたい。

 

 「何も思わないわけじゃないさ。詩織を詩織じゃなくしてしまったんだからな!」


 煌は、いつになく暗い表情を浮かべて言った。

 俺も煌も思いは同じということらしい。


 「随分と盛り上がってるね〜」


 突然響いた見知らぬ声。


 「誰だ!?」


 俺も煌も辺りを見回した。

 だが声の主を見つけることは出来なかった。


 「神ってやつさ」


 真上で声が聞こえたかと思えば次の瞬間、道化師じみた格好の少年が一人、目の前に現れた。


 「いつの間に!?」


 無邪気に笑う少年に恐怖を感じた。

 圧倒的な力を持っていた倉見にさえ感じなかった恐怖を、暗器のように忍ばせた少年。

 

 「どうやったら信じてもらえるかな?」


 口元に指を当てた思案顔の少年は球体状にした魔力を俺と煌へと飛ばした。

 球体が当たるとそれはミストのように広がって目を開けているにもかかわらず、実際に映っている光景とは全く別の光景を映し出した。


 「君たちが僕に逆らったらきっとこうなっちゃうんだろうなって映像だよ」


 荒野に立つ十字架に括り付けられた俺たちは、向かいあったまま激しい風雨に晒された。

 夜になれば魔物がやってきて少しずつ体の部位を齧り取られていく。


 「く、来るな!!」


 最初に餌食になったのは煌だった。

 見たこともない大きな顎を持った甲虫に足を齧られた。


 「い、痛てぇぇぇぇぇよぉッ!?」


 引きちぎられた筋繊維、露になった骨は月の光がありありと照らした。

 目の前の光景を受けてか自分の足も痛くなり出した。

 ある程度、煌を痛ぶったことで満足したのか黒光りする巨大な甲虫は、触覚を俺へと向けた。


 「次は俺かよっ!?」


 顎から覗く唾液と血に濡れた舌が、俺の腕を這いずり回った。


 「やめてくれ、やめてくれェェェェェッ!!」


 激しい痛みを伴って腕から温かな体液が噴き上がる。

 股間が濡れたことなど最早気にならなかった。


 「チクショウ!俺の腕を返せよっ!!」


 もう剣も握れやしねぇ!

 絶望と痛みに打ちひしがれて朝を迎えた。

 もう出血多量で死んでいてもおかしいはずなのに痛覚と意識を伴ったまま映し出された光景は朝を迎えた。

 耳障りな鳴き声とともに黒い怪鳥が飛来してきた。

 そして俺の腹の辺りの高さを器用に維持しながら、その鳥は容赦なく俺の腹をつつきまわした。


 「がァァァァァァァァッ!?」


 激痛と共に腸がずるずると引き出されていく。

 もう視界は自分の血に染まって何も見えやしなかった。


 「……やめてくれよ……もう、こんなのっ!」


 息も絶え絶え、俺は泣き喚きながら懇願した。


 「僕は遊戯を司る神さ。久しぶりに楽しい遊戯をさせてもらったよ」


 少年はあの邪気のない顔で言った。

 その顔を見て俺は、はたと気づいた。

 邪気が人間の皮を纏っているから、邪気のない笑顔であんなことが出来るのだと。


 「……俺達に何の用だ……?」


 元の視界を取り戻し身体には何の危害もないのだと確認しながら訊いた。

 

 「君たちには恨んでいる人間がいるだろう?それは僕の敵でもあるんだ!」


 賽子を右手で何ともなしに振りながら少年は言った。

 彼の言うのはきっとあの無職無能のことなのだろう。


 「アイツ、神まで敵に回してたのかよ。ざまぁねぇな!」


 込み上げてくる笑い、湧き上がるどす黒い感情。

 さしずめこの感情は復讐心とでも言うんじゃないか?


 「そこでね、僕は君達に力を与えようと思うんだ」


 さっきの悪夢が力の対価だとするのなら、何度見たってお釣りが来る。


 「僕に見せてくれよ?あの男が絶望に染る姿をね!ハハッ、復讐心に駆られた同郷の人間に殺される、素晴らしい遊戯だと思わない?」


 俺は煌と視線を合わせて頷きあった。

 必ずなクラスメイトである詩織が変貌してしまった罪を償わせるんだと。

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