第60話 剣士の洞察力
ちょっと遠回りで部屋を借りている宿屋へと戻った。
「エリスは一緒じゃないのか?」
自分とコルネリアの部屋に戻るとそこにいたヒルデガルトが開口一番、怪訝そうな顔を浮かべた。
「先に戻ってたんじゃないのか?」
一人で走っていったのだから既に戻っているものと思っていたがどうやらそうでもないらしい。
「何かあったのだな?」
これまでずっとエリスの傍に控えてきたヒルデガルトは、すぐにも何かが起きたのだと見抜いたらしかった。
「お兄ちゃん……エリスお姉ちゃんは戻らないのですか?」
不安そうなコルネリアの瞳が揺れている。
「実はな――――」
俺はことの顛末を話した。
「それはハルトが悪いな」
「リアはお姉ちゃんと同じ気持ちです!」
いつも一歩引いたような物言いのコルネリアでさえ、胸の前で拳を握って強く意思を示した。
「そうか……」
二人にまで強く言われてしまったのなら考えを改めざるを得ないな。
「ハルトは、私やエリス様のとは別に何か大きな目標があるのだろう?」
ヒルデガルトの洞察力の強さはエリスに対してだけではなく俺も例外では無いらしかった。
「……話してもないのに流石だな」
「それほどの強さを持っているのなら、何か果たしたい大望があることくらい簡単に想像がつく」
ヒルデガルトの持つ洞察力の鋭さは、相手の出方を読み相手の動作に注意を払う剣士としてのものなのだろうか……。
そうだと言うのなら彼女が強い理由も納得が行く。
「時が来たら話すつもりだ……」
今は話せない。
種族を問わない国家の形成を行うと言おうものならこのパーティはきっと空中分解してしまう、そんな気がするのだ。
なぜなら、エリスやヒルデガルト、コルネリアは故郷を魔族によって追われた過去を持つ。
きっと魔族を許すことは出来ないだろうから。
魔族を許容出来るような機会があればまた話は別かもしれないが……。
「話す覚悟が固まったときで構わない。その日を私は待ち続けよう」
ヒルデガルトは詮索するようなことはしてこなかった。
やはりこれも剣士として、たとえそれが戦場でなかったとしても踏み込んでいい間合いは心得ているのだろう。
「そう言ってくれると助かる」
「なぜ訊かないか、と問われれば私はこう答えよう。今のハルトには私の質問に答えることよりもすることがあるだろう?」
冗談めかして言ったヒルデガルトの見つめる空は、もう茜色だった。
「そうだな……探してくる」
見知った魔力反応を探知魔法で探せば或いは簡単に見つかるかもしれない。
「一つアドバイスしよう。思い悩んだときの彼女の癖だが、何処か高いところで景色を眺めているはずだ」
ヒルデガルトはそう教えてくれた。
きっとこういうのは初めてじゃ無いんだろうな。
「ありがとう」
「リアも行きたいですけど……きっとエリスお姉ちゃんは、ハルトお兄ちゃんが行った方が喜ぶのです!」
行ってらっしゃいと、はにかみながらコルネリアは手をフリフリした。
エリスが思い悩んでるのだとすれば、それは俺の責任だ、必ず連れ戻してこよう。
何かあっても困るしな……。
二人に見送られながら俺は部屋を出た。
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