奪還編
第59話 口論
「―――――そこに現れた銀仮面の英雄の一人、竜殺しは言ったのです!!『あぁ、か弱き異国の姫よ、私が今から貴方を救いましょう!』と竜殺しは、姫だけではなく未熟なる勇者たちをも救い出し国の危機に立ち向かったのです」
流暢な口ぶりと独特な節回しと共に吟遊詩人は、さも自分が見たかのように最近巷で話題の銀仮面の勇者の活躍を語った。
「なんか照れるわね……」
「あの男の語る英雄は随分とキザな性格らしいな」
エリスと買い物に出た帰り、街の広場に人集りが出来ていてちょっと立ち寄ったら予想以上に脚色された知らない英雄の物語を耳にしたというわけだ。
「きゃー竜殺しカッコイイ!!」
「でも連れていたのは美女三人もカッコイイね!」
特に女性からは絶大な人気を誇るらしく、黄色い悲鳴が聞こえてきた。
「私が美女ってのは間違いじゃないわね!」
エリスは満更じゃないらしく嬉しそうにしていた。
まぁ確かにエリスが整った顔というのは間違いない。
「それを自分で言ってしまうのが残念なとこだよな」
「だってだ〜れも言ってくれないんだもん!」
チラッチラッと俺の方へと視線を向けるエリス。
これは言ってやらんと収まらないやつか……。
「そうだな、エリスは綺麗だ」
「うぇへへへっ」
そう言ってやると、だらしない笑顔を浮かべたのだった。
これは確かに銀仮面してないと英雄は務まらんわな。
カッコ良さとはかけ離れた素顔を隠す銀仮面、俺は勝手に納得させられた。
「――――そしてこのケルテンは救われたのでした!めでたしめでたし。次章、
いつの間にか物語は終わりを迎え、勝手に次回予告までされていた。
「ハルトの知り合いなんだっけ?」
エリスはいくらか声のトーンを落とした。
「そうだな……俺の幼馴染だ」
既に俺が召喚された勇者の一人であることは話していた。
「それは辛いわね……」
何故か俺以上に沈痛な面持ちでエリスは言った。
「助けに行くつもりなんでしょ?」
「そのつもりだがこれは俺の人間関係だからエリスやヒルデガルト、ましてやコルネリアを付き合わせるつもりは無い」
きっと危険極まりない状況に追い込まれてしまうだろうから。
関係の無いエリスたちを付き合わせたくはない。
「……なんでそんなこと言うのよ!?」
エリスは俺の言葉にもの凄い剣幕で反発した。
「私たち、仲間じゃなかったの!?」
「あぁ……仲間だ」
シュヴェリーン公国の領土奪還という悲願を果たすその日までの――――。
そこでの国の運営が軌道に乗れば、そこでお別れだ。
帝王学や領地経営のノウハウなんて知りもしない俺に出来ることなんてないからな。
「ならもっと頼りなさいよ!貴方の問題は私たちの問題なの!」
「でもこれは俺の問題であって、危険なことにエリスたちを付き合わせたくないんだ!」
下手すれば悲願だって叶わなくなってしまうのかもしれない。
詩織を吸血鬼へと変えてしまった力は、今まで以上に強大なものである可能性は極めて高い、そんな気がするのだ。
それを考えると、エリスたちのリクスに対してのメリットが無さすぎる。
ますます付き合わせたくは無い話だった。
「人の気も知らないで、この大バカ!」
エリスは一方的に捲し立てると俺の頬を平手打ちして走り去って行ってしまった。
「おいエリス、待て!!」
呼び止めるとエリスは足を止めようとはしない。
エリスたちを必要以上に危険なことに付き合わせたくないという俺のこの気持ちは間違っているんだろうか――――。
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