第57話 報酬の約束

 「本当に魔物を退けてしまうとは……!」


 ケルテン王国宰相のアルジスは、俺たちの報告を聞いて驚きの声を上げた。

 だが居合わせた男は怪訝な表情を浮かべた。


 「ドラゴンを倒したというのは疑わしいですな!」


 確か名はツェスタといったか……?


 「こればっかりは戦場を見に行けとしか言いようがないな」


 あんな重たくてデカいものを持ち運ぶのは骨が折れるので、そのまま野ざらしにしてある。


 「報告にあったのはお前達のような子供連れではなかったぞ!」


 ツェスタは、口角泡を飛ばしながら追及した。

 自分ではなく他国の人間である俺達が、アルジスの信頼を買い活躍したというのが、それほどまでに面白くないのか……?


 「お兄ちゃん、あれをかけて欲しいのです!」


 証明してみせます!と言いたげにコルネリアは言った。


 「ツェスタ、その目にしかと焼き付けろよ?【幻視紕惑イドラ】」


 コルネリアは【幻視紕惑イドラ】の魔法によりに、大人の姿となった。


 「なっ……なんだこの魔法は!?」

 「これで、納得してくれたか?」


 ツェスタは信じられない、と言いたげにコルネリアを見つめた。


 「疑い深くてすまん……」


 アルジスは苦笑いを浮かべていた。


 「だ、だがっ仮面を身につけていたという報告が―――――」

 「これのことか?」


 俺は胸元から銀の仮面を取り出した。

 

 「なっ……認めるしかないというのか!?」

 

 ツェスタは悔しげな視線を俺に向けた。


 「疑うのも信じるのもお前の自由だ」


 俺の言葉を受けアルジスが


 「ツェスタ、気は済んだか?」

 「は、はい……」


 意気消沈、黙り込んでしまった。


 「一つ気になるのだが、その仮面には何の目的があるのだ?」


 確かに見る人が見れば怪しさしかないのだろうな。

 素性を隠すというのは何らかの後ろめたさがあるのでは?という疑問を持つのは俺も同じだ。


 「素顔がバレると俺たちの目標に支障をきたすような気がしてな?その一環で【幻視紕惑イドラ】の魔法を用いてコルネリアの姿も改変している」


 既にオルテリーゼや勇者達にはバレてしまっているが、冒険者たちにはバレていないはずだ。


 「なるほど……よく分かった。その目標のために我々を後ろ盾にしようと言うのだな?」


 流石は宰相、一国の政治を取り仕切るだけのことはある。

 

 「そうだ」

 「素性を隠し、国を後ろ盾にまでして成したい目標というのは何だ?」

 

 執政官のトップたるアルジスからすれば、不明瞭な事柄には力を貸したくはない、それは至極もっともなことだ。


 「話してもいいか?」


 俺は目標を掲げる当の本人であるエリスに訊いた。


 「……仕方ないわ」


 黙っていても何も始まらない、ということはエリスもよく分かっていた。

 

 「シュヴェリーン公国領土の奪還だ」

 「軍隊を出すほどの協力は求めないわ。私達の活動の拠点にすることと、後は物資の調達なんかで便宜を図って欲しいってぐらいよ」


 俺の説明をエリスが継ぐ。

 シュヴェリーン奪還は俺たちの私闘に過ぎない。

 それに国家が協力してくれるはずもなく、また俺達も巻き込むつもりはない。


 「四人で……本気なのか?」


 今は明かすつもりはないが、エステルと交した約束の実現の第一歩がシュヴェリーン奪還だと俺は考えている。

 民のいなくなってしまっただろう土地を活かして、エステルの目指したを実現するのだ。


 「もっと強くなる必要はあるけれど、やってみなきゃ何も始まらないわ」


 目標を語るエリスは、まるでその道筋が見えているかのように遠くを見つめている。


 「……わかった。こちらも約束通り後ろ盾となることを約束しよう。ただし、国家の危機に瀕すれば手を引くという条件付きだ」


 しばしの沈黙の後、アルジスは約束してくれたのだった。

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