第55話 竜人の娘、エヴァ

 ドラゴンと渡り合っていたときが嘘のように身体が軽かった。

 目蓋を開けると視界いっぱいに映ったのは見知らぬ人の整った顔。


 「おぉ、ハルト殿が目覚めたのじゃ!」


 どこか古風めいた口調で、声を上げた女性は着流しを身に纏っていた。

 語尾が「のじゃ」だったが、のじゃロリというわけではなく妙齢の女性だった。


 「ハルト!!起きたのね!」

 「お兄ぢゃ゙ん゙ん゙ん゙!」


 ベッドのすぐ脇の椅子に腰掛けていたエリスとコルネリアが両側から抱きついてきた。


 「なんか只事じゃないみたいだが…どうしたんだ?」


 俺が尋ねるとヒルデガルトが呆れたような顔を浮かべた後、説明してくれた。


 「ハルト、お前はこの三日間ずっと起きなかったのだぞ?」


 ヒルデガルトの言葉を聞いて、二人と出会った日のことを思い出した。

 あのときも古代魔法を連発して倒れたんだったな。

 その頃に比べれば、だいぶ俺も丈夫な身体になったらしい。 

 エステルの知識に言わせれば、魔法を使い込むことで全身を巡る魔力回路が太くなり、より多くの魔力の通過を許容できるようになったのだという。

 ちなみに寝込むのは、魔力回路の酷使による疲労のためだとか。

 

 「頑張りすぎたってことか」

 「そうだな、ハルトを頼りすぎないよう私も精進するとしよう」


 そう言って柔和な微笑みを浮かべたヒルデガルトの顔は年相応の少女らしいものだった。


 「で、そこにおられる御仁だが――――」


 ヒルデガルトの言葉を遮って見知らぬ女性を口を開いた。


 「妾の名はエヴァ・シルグリア。竜人族族長の娘だ。気軽にエヴァと呼んでくれて構わぬ。ハルト殿には感謝の言葉を伝えに参った次第じゃ」


 よくよく見てみれば、着流しの裾から尻尾のようなものがこんにちはしていた。


 「ハルト殿は、この尻尾が珍しいのかえ?」


 彼女の尻尾には見覚えのある尻尾を小さくした、といったような印象を受けた。


 「いや、討伐したドラゴンの尻尾に似ていただけだ」


 そう伝えるとエヴァは、身体を起こした俺の側へとやってきた。


 「あれはな……妾の兄なのじゃ」


 エヴァの口から語られる衝撃の事実に俺は、反射的に頭を下げた。


 「すまない!」


 エヴァは実の兄を殺した俺に対してどういう思いでいるのか、それを考えれば頭を下げて詫びても足りないに違いない。

 だがそんな俺に対してエヴァが掛けた言葉は優しいものだった。


 「ハルト殿は正しい行いをしたのじゃから気にすることはあるまいて」

 「どういうこと…だ?」

 「兄は、才能があるが故に自信過剰な性格で妾たち里の者では手がつけられなかったのじゃ。その性格が災いしてか魔王に腕試しの機会を与えるとそそのかされた結果がこのザマよ。あれは妾たち竜人族の恥なのじゃ」


 そう言えば、彼女は自己紹介で礼を言いに来たのだと言っていたな。

 俺は安堵にホッと胸を撫で下ろした。


 「改めて礼を言おう。兄を討伐してくれたこと、心の底から感謝する」


 今度は俺が頭を下げられる番だった。


 「たまたま運がよかっただけだと思っている。頭を下げられるようなことじゃない」


 下手をすれば死んでいたのは俺たちの側だったのだ。

 エヴァは俺の顔を覗き込んだ。


 「それほどの実力を持っていながら、驕れることもないとは面白い男よの!」


 豪放磊落に笑うとエヴァは何処から出したのか酒を呷った。


 「必ず此度の恩は返してみせよう。竜人族の誇りにかけて誓うのじゃ!」


 実は酒に弱いのかたった一回、呷った酒に顔を赤らめたエヴァは、何処か焦点の合わない目で俺を見つめて言ったのだった。


 †謝辞御礼†


 累計PV十万超してました!

 おつき合いありがとうございますm(*_ _)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る