第51話 仲間

 「後悔に浸っている時間はないということか……」


 ドラゴンの咆哮が耳朶を打つ。


 「ハルト、立って」


 エリスは俺に手を差し伸べた。


 「ひどい顔してるわよ?」

 「そうか?」

 「ほら」


 エリスは俺と額を突き合わせた。

 エリスの茜色の瞳に映る俺の顔は確かに酷かった。

 主には泣き腫らした目のせい。


 「どうするか指示を出してくれれば、私達はいつでも傍で戦うわ」


 どういう意図を持ってエリスがそう言ってくれたのか、それを考えただけで目頭が思わず熱くなった。


 「そうだな、とりあえずアイツを倒さないと詩織を助けることも出来ないしな……」


 俺はエリスの手を取って立ち上がった。

 そして天幕を出て心配そうに様子を見守るオルテリーゼに声をかけた。


 「勇者どもを連れて退がれ!」

 「そうさせて貰いますわ!」


 交わす言葉はそれだけ。

 オルテリーゼも勇者たちの体裁のことなど気にする余裕は無いらしい。


 「なんで無職無能のお前がそんなに強くなってるんだよ!!」


 去り際に相沢がそんなことを口走った。


 「戦えない勇者は無能以下よ!」

 「雑魚はよく吠える」


 相沢の言葉をエリスとヒルデガルトは一蹴した。

 魔法のレベルでは勇者パーティの誰一人もエリスと並び立つことは出来ず、剣の腕前ではヒルデガルトに勝てる者はいない。


 「なっ……俺は勇者だぞ!」


 怨嗟の入り交じった瞳を二人へと向けたが二人は取り合うことすらしなかった。

 代わりにコルネリアが


 「勇者って勇ましい人なんだよね?でもこの人達は全然勇ましくないのです!」


 と物怖じしない態度で辛辣な言葉を浴びせた。

 

 「チッ……覚えてろよッ!!」


 三下もびっくりな捨て台詞とともに相沢は去っていった。


 「本当に気分の悪い奴だな」


 ヒルデガルトは一笑に付すと俺を見つめた。

 

 「勇者と知り合いなのか……?」


 どうやら思ったよりも早く話すことになるらしい。

 本当は俺の口から話すつもりはなかったんだがな……。

 詩織といい相沢といい決定的なやり取りを聞かれてしまった以上、隠すことは難しいだろう。


 「知り合いだな……」

 

 素直に答えると、ヒルデガルトはそれ以上追及しては来なかった。


 「そうか……」


 聞かないのもきっと彼女なりの優しさなのだろう。

 だからこそ、その好意を裏切るわけには行かない。


 「終わったら話す」


 三人は身元を明かしてくれているのに俺だけ伏せているというのは不公平だしな……。

 


 ◆❖◇◇❖◆


 ドラゴンとの距離は、目測二百メートルをきっていた。


 「エリス、そろそろ届きそうか?」


 魔法とは魔力の形を変えること、そして指向性を持たせること。

 それ故に、行使する者の魔力量に比例して射程範囲は変わってくる。


 「そろそろ行けるわ!」


 距離で言えば、ケルベロスの足止めを行った距離と同じくらいだろうか。

 勇者パーティや他のパーティの『魔術師メイジ』たちの攻撃魔法をこれまで見てきたが二百メートルで放っているのは本当に限られた人だけだった。

 つまりはエリスの魔力量というのは、それほどまでに高いということなのだろう。

 あるいはこの短期間で成長を遂げたのか。

 

 「なら、そろそろ始めよう!ヒルデガルトとコルネリアは雑魚どもの足止めを頼む!」

 

 俺の言葉にヒルデガルトとコルネリアは眦を決して頷いた。


 「我に仇なす者の命は永劫流転、焔滅ロヴィーナ


 フォルセティの効果の一つである魔力増幅により、大幅に引き上げられた殲滅級の魔法でドラゴンとの戦闘の火蓋を切って落とした。

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