第50話 別れの告白
詩織が……魔族になったのか……!?
どういう仕掛けなんだ!?
ヴァンパイアと化した詩織は、クラスメイトの一人の首元に目にも止まらぬ動きで腕を回した。
「ハルト、あれでは血を吸われるぞ!?」
「吸われるとどうなる!?」
ヒルデガルトの口から返ってきた答えは予想の斜め上をいくものだった。
「死ぬことも十分ありうる!」
ヴァンパイアになるよりかはマシかもしれんが、それでも血を吸われた代償はデカイな……。
チッ……俺がいくしかないか……。
もしかしたら止められるかもしれない。
吸血衝動が勝るか幼馴染の俺の頼みが勝るか、正直賭けではあるが……やるしかないだろう。
「や、やめてよ詩織!」
今まさにクラスメイトの首へと歯を突き立てようとした詩織を俺は押し倒した。
そして俺は詩織にだけ見えるように仮面を外した。
「何をするの……っ……春人……くん!?」
驚きに目を見開いた詩織の瞳は深紅だった。
「そうだ、俺だ」
深紅の瞳に涙が浮かんだ。
「心配したよぉ……」
詩織は俺を抱き寄せた。
「心配させて悪かった」
「なんで……私の前から消えちゃった…の?」
恐る恐る訊いてきた詩織は俺の瞳を見つめて答えを待つ。
真実を語ってもいいものか、俺は逡巡したがまっすぐ見つめてくる詩織の瞳の前に嘘をつく気にはなれなかった。
「創造神が死ぬ間際に俺と交わした約束のためだ」
詩織は俺の答えを聞くと俯いた。
暫くの沈黙が辺りを支配したやがて詩織は口を開いた。
「一つお願いがあるの、少しでいいから春人くんの血を貰えないかな……?やっぱり血を吸うのなら春人くんのがいいかなって……」
遠慮がちに、そして恥じらいながら詩織は犬歯を見せた。
「こんなんになっちゃってね……?その、血を吸わないと死んじゃいそうなんだ」
ヴァンパイアになったばかりは恐ろしいほどの吸血衝動に狩られる、という話は魔族についてエステルの知識で学ぶうちに知っていた。
「痛くしないでくれよ?」
断りもなく詩織の傍から離れてしまったことは俺の罪と言えよう。
もし仮にも詩織が俺と会いたいと願ったなんて素敵な理由があってヴァンパイアになってしまったなんて事実があったとしたのなら、それは俺の責任だ。
冗談めかしてお願いすると詩織はニコッと笑った。
「努力するね」
はにかみながらそう言うと抱き寄せた俺の首筋に詩織は口元を近づけた。
エリスたちやクラスメイトたちの視線が集まる中、詩織は
「いただきます」
耳元でそう囁くと俺の首筋に犬歯を突き立てた。
「うぐッ!!」
驚いたあまりにそんな声が出たが、思っていたほど痛いわけではなくそこにあるのは甘い疼痛だった。
「んっ……あむっ…んちゅっ……れろっ」
しばらくしてそっと口を離した詩織の口元からは銀色の糸が伸びていた。
「すっごく美味しかったよ……ありがとう」
嬉しそうに言った詩織の目は、しかしすぐさま憂いを帯びたものへと変わった。
「こんな姿になっちゃったし……私はここにはいれないね」
寂しそうに言うと背中の翼を広げた。
「俺と一緒に来ないか?」
クラスメイト達と一緒にいてくれるのが一番安全だが、それが叶わないのならと俺は提案したが詩織は首を横に振った。
「春人くんの仲間の人達、怖がってるもん……無理だよ」
詩織は俺の手を振りほどいて空へと浮かび上がった。
「最後に会えて嬉しかった。好きだよ、春人」
精一杯の笑顔を見せて、でも瞳には涙を浮かべて詩織はそう言うと未練を断ち切るかのように飛んでいってしまった。
詩織……今まで気持ちに答えてやれなくてごめんな。
募るのはやるせなさばかり。
そして自分自身の不甲斐なさに怒りを覚えた。
「必ず迎えに行くから、待っててくれ」
目尻を押えて涙が流れるのを堪えつつ俺は、誓った。
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