第49話 予想外
「なぁハルト……」
ヒルデガルトがある程度の魔物の討伐を終えて戻ってくると遠くを指さした。
「どうした……って訊くまでもなさそうだな」
ヒルデガルトの指の示す先に、黒々とした瘴気が満ちた場所があった。
そしてそこには―――――竜がいた。
「魔族ってのはそんなものまで引っ張って来るのかよ……」
口から吐き出す業火は見れば分かる即死級の攻撃。
「やれそうな気がしないんだけど……?」
エリスの顔には、こんなの捨てて逃げない?と書かれていた。
いくら正義感の強い少女といっても
「それはそうだが……ここであのドラゴンを止めないと国が消えるのは確かだろうな」
あいつが現れたタイミングで魔物にも纏まりができてきていた。
ということは恐らくあのドラゴンが魔物達を統率しているのだろうだろ。
「伝承にはドラゴンは高潔な種族とあるのだが……どうして魔族にしっぽを振ったのか気になるところではある」
こうして言葉を交わしているうちにもドラゴンは少しずつ近づいて来ていた。
「来ている方向は北だから、お姉ちゃん達の故郷の方なのです!」
何ともなしに言ったコルネリアの言葉にエリスとヒルデガルトの表情は変わった。
「あのドラゴンは私たちの故郷を破壊したかもしれないってことよね?」
守るべき数万の民を投げ出し逃げるしなかった二ヶ月前の二人はもうここにはいない。
憎悪とも怨嗟ともとれる瞳でドラゴンを見つめる二人からは覆滅するという固い意思が見て取れた。
「余計なことを言っちゃったのでしょうか……?」
二人の変貌ぶりにコルネリアは驚いたのか俺を見た。
二人を奮起させたのだから、コルネリアには感謝こそすれ怒ったりはしない。
「これでいい。むしろ助かった」
ケルテンとの国境にこれだけの魔物が送られて来ているのだから、既に魔族の支配領域となったシュヴェリーン公国領には、もっと多くの魔物や魔族が跳梁跋扈しているのだろう。
それを考えれば、たかがトカゲの一匹で躊躇っていてはエリス達の悲願を達成することは出来ない。
ここは、どれだけ苦戦してもいいからドラゴンを倒すことが最良の選択肢だろうというのが俺の考えだ。
「お前達はオルテリーゼ姫を連れて後退しろ。後は俺達で片付ける」
勇者達にそう話すと、一人が立ち上がった。
見覚えのある顔、と言うよりかは何時も俺の隣にいてくれた幼馴染の顔。
「私を連れて行ってください!!」
詩織は眦を決して言った。
痛むのか胸を手で押えながら、話すのもやっと、というかのように詩織は訴えた。
「その体じゃ無理だろう?」
ヒルデガルトはそんな詩織を見つめると静かに問いかけた。
それほどまでに詩織の挙動に力は感じられなかった。
「……邪魔ですか……足でまといですか?」
酷く落ち込んだように詩織はその場にへたりこんで、虚ろな目で虚空を眺めた。
「今の状態ではな」
すかさずヒルデガルトはフォローをいれるが、その言葉を詩織は聞いちゃいなかった。
「あぁ……ぁぁぁぁぁぁぁッ!!力が……力が欲しいッ!!」
呻くように口走った詩織の様子は傍から見ても異常な程だった。
目は血走り纏っていた衣服の背中部分の生地が破れ、闇を溶かしたような漆黒の羽が広がる。
「お前……どうしたんだッ!?」
伸びきった爪は鋭く尖り、黒い尻尾まで生えている。
その姿はまるで、ヴァンパイアだった―――――。
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