第47話 影の英雄、推参!(2)

 「春人くん……なの……?」


 大地を震わせながら現れた壁は、私にとって見覚えのあるものだった。

 と言うよりも、その魔法を使っている人を私は一人しか見た事がない。


 「馬鹿を言うな詩織!アイツは根源爆破の魔法で死んだんだぞ!」


 私の言葉と、同時に抱いた万に一つの可能性を天童くんは躊躇いなくかき消した。


 「でも……だってあの魔法は……井林くん、あの魔法は春人くんのだよね?」


 あの時、私と一緒に春人くんに守られたクラスメイトに縋る様な気持ちで同意を求めた。


 「あ、あぁ……でも、俺達は見ちまっただろっ!?光の中に消えていく倉見の姿を!」


 自分でも何となくわかってはいるけれど、目の前に現れた春人くんが生存しているという可能性を信じずにはいられない。

 未だに幼馴染の死亡を私は受け入れられずにいた。


 「死にたくなければ私の後ろにいなさいっ!」


 黒の外套に身を包み仮面で素顔を隠した少女が叫んだ。

 声からして私達と歳は変わらないだろう少女は、魔杖に傍目にもわかるほどの魔力を帯びさせていた。

 勇者として召喚された自分がちっぽけに見えてしまうほどの膨大な魔力。


 「悠久を流れる大河は永遠の隔たり、礪河絶隔バルクヘッド


 静かに流れ落ちる水の壁が目の前に現れた。


 「強そうだな。いつの間にそんな魔法習得してたんだ?」

 「そういえば見せたこと無かったわね。私の祖母の秘伝の魔法よ!」

 「そうか……頼りにさせてもらうぞ。俺の【神盾イージス】は要らないな?」

 「初めて使うから分かんないけど……多分?」


 仮面の少女は小首を傾げた。

 

 「なら、並列行使しなくて済むから助かる」


 仮面の男の声は、私のよく知る声だった。

 やっぱり……やっぱり春人くんは生きてたんだ!

 私は嬉しさに胸が熱くなった。

 顔の確認は出来なくても、その声、その魔力、その口元が私に確信を持たせた。

 だがそれも束の間―――――


 「カハッ……あぁ……どうしてなのッ!?」


 せっかく再会を果たせたかもしれないっていうのに……っ。

 突如として激しい動悸とズキズキとした痛みが私を襲った。

 

 「詩織、大丈夫!?」

 「しっかりしろ!!」


 クラスメイト達が駆け寄ってきたが、それに答える力は既に無い。

 いや、違う。

 奪われてしまっていた。

 流れ込んでくる得体の知れない力。

 知らない魔力による強力な違和感。

 視界は明滅を繰り返し、会話もおろか息をつくことさえやっと。


 「あぁぁぁぁぁッ!?」


 喉が焼けるくらい息が熱い。

 どうしちゃったの……私の体!?


 「痛い痛い痛いッ!!」


 それまでの比にならない痛みが襲う。

 

 「ゲホッ……ゲホッ」


 やっとのことで吐き出したのは見覚えのある果実だった。

 シレーナの言葉をふと思い出した。


 『何か代償はあるの?』


 私の質問に対してシレーナは、明確なる答えを出せずにいた。


 『代償ねぇ……。その柘榴が貴方を彼へと導くの。でもそれは不確定要素が多いから、どんな代償があるかは今の時点では、わからないわ』


 吐き出した柘榴の実に粒はない。

 ひょっとして私は―――――何か飛んでもないものを宿してしまったの……?

 朦朧とする私の見た光景は幻覚。

 隣には春人くんがいて優しく微笑んでいる。

 今度は、今度はその手を離さないから……っ!!

 私の隣にいてよ!

 声にならない叫びは意識と共に消えた――――。

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