第46話 影の英雄、推参!
「あなた達、何を黙って見ているのですか!?早く勇者の盾になりなさい!」
天幕から出てきて口角泡を飛ばして捲し立てるのはイリュリアの王女、オルテリーゼ。
この世界に来て最初に俺を無能呼ばわりした女だ。
俺はそんなオルテリーゼに向き直った。
「いいのですか?彼らをこんなにもすぐ助けてしまって」
慇懃に頭は下げたまま、一人でに俺の唇は弧を描いた。
「なっ!?それはどういう意味ですの!?」
この王女サマは、どうやら俺の言いたいことが分からないらしい。
「世界の危機に現れ世界を救う、それが勇者にまつわる伝承なのは、召喚した本人である王女サマならよくご存知のことでしょう。ですが、戦闘が始まって五分程度でその勇者達を救えと王女サマは仰る」
伝承にある世界を救う勇者達がたった五分の戦闘で根をあげるとなれば、伝承を信じる民衆の期待を裏切ること甚だしい。
「この戦闘に世界の目が向いているのです。そして冒険者というのは元来口さがない者達ですから今助ければ、五分の戦闘で音を上げたことはあっという間に知れ渡るわけですよ。それでも今助けろと?」
勇者達が外交材料とするということは、イリュリア王国にとってプラスにもマイナスにもなり得る。
さて、王女サマはどう出るかな?
オルテリーゼの顔は焦っているのか、うかない顔で俺と魔物達と戦う勇者達との間で視線を往復させている。
「あ、防御魔法がまた破られた。もう持ち堪えられなさそうなのです」
空気を読まないコルネリアの声にオルテリーゼの顔はますます曇る。
ナイスだ、コルネリア。
評判のために数人の勇者を殺すのか、見栄を捨てて勇者を守るのか。
パリィィィィィィン――――
数枚の防御魔法が纏めて砕け散る甲高い音が響いた。
「行きなさい!」
何かを覚悟したような表情でオルテリーゼは言い放った。
俺はエリス達に向き直る。
「手を取れ」
俺の魔法の効果を全員にもたらすために四人で手を繋いだ。
「【
失われた移動魔法の一つ、【
「初めての感覚だわ」
「地に足の付かない感覚が新鮮だな」
「このままもっと高くまで飛んでみたいのです!」
三者三様の感想は、これからの戦闘に対して誰一人として気負いがないことの何よりの証左だった。
「さて、
自分たちが馬鹿にしていた無能なクラスメイトに二度も救われたなんてことを知ったとき、彼らはどんな顔をするのか。
もちろん、まだ正体を明かすつもりもないしこちらからアイツらに積極的に介入するつもりもない。
今回だって成り行きでこうなっているだけだ。
無能と馬鹿にしていた存在に救われ無能以下へと成り下がる滑稽な姿を見たいと、内に秘めた復讐心が囁くのか俺は嬉々として魔法を行使していた。
「思ったより性格歪んでるのね」
エリスはそんな俺の横顔を見て呆れ顔になっていたが
「勇者連中ともあの王女とも因縁浅からぬ仲ってやつだ」
「一体何があったのよ……」
「そのうちわかるだろうよ」
こちらから話すつもりは無いから、俺と行動を共にする中でエリス達が勝手に気付いていってくれるのが望ましい。
「お兄ちゃん、獲物がいっぱい!」
そんな俺の考えは、瞳を爛々とさせたコルネリアの一言で霧散した。
「【
勇者達を守るよう広範囲に防御魔法を展開させる。
そして勇者達と不可侵の壁との間に着地した。
「エリス、勇者パーティの面倒は任せたぞ?」
「え、私……戦闘参加出来ないの!?」
エリスは残念そうな表情で言った。
気が付けば伸びていく実力を試すのが楽しみなのかエリスもだいぶ好戦的な性格になっていた。
「言ったろ?俺は
「わかったわよ……」
エリスは肩を落とすと既に戦意の萎えかけた勇者達の前に立った。
「死にたくなければ私の後ろにいなさいっ!」
素性を隠す銀の仮面を身につけ、フォルセティに圧倒的な魔力を帯びさせて決然と言い放つ姿は、まさに彼女の望む影の英雄だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます