第44話 悪い考え

 翌朝、村は突然として騒がしくなった。

 

 「何があったんだ?」


 周囲の冒険者に尋ねたところ、


 「離れた陣地の連中が襲撃を受けたらしい」


 どのことだった。

 それ故に、本格的な敵襲が近いのだと騒ぎになっていた。

 今は、ちょうど陽光が東の地平から差し始めた頃合いだ。


 「よりによってこの時間かよ……」


 元いた世界の時間で言えば午前四時くらい、人間がもっとも弱い時間帯だった。

 そんな時間を選んで襲撃してくるのだから魔族はよっぽど性格が悪いとみえる。


 「お前達、冒険者は勇者様方を守れ!」


 ケルテン王国軍の指揮下にある俺たちは冒険者は、その命令にしたがって動くことになっているらしい。


 「なお、アルジス宰相閣下の特命により派遣された冒険者は前へ出よ!」


 指揮官の言葉に俺達は顔を見合せた。

 既に全員の顔には上半分を覆う銀の仮面があった。


 「貴殿らがアルジス宰相閣下が遣わした冒険者達であるか」


 俺達が前に出ると、それまで居丈高な態度を取っていた指揮官は態度を一変させた。


 「貴殿らには前線には立たず、最悪の事態の備えておいて頂きたい」


 俺に向かって指揮官は頭を下げた。


 「任せておけ」


 そう言葉を返すと指揮官は黙礼して去っていった。


 「なるほど、最後の切り札というわけね!」


 その後ろ姿を見送りながらエリスは昨日と変わらずウキウキしていた。

 だが俺達に求められているものは、そう喜んでもいられないものだった。

 最悪の事態に備えて常に勇者パーティの傍に控え、万が一の際はその命に替えても依頼を全うせよ、ということなのだから。

 

 「こんなことなら、もう少しふんだくってやっても良かったな」


 勇者達クラスメイト達のそばに控え、それを守るかと思うと気乗りはしない。


 「まぁハルト、そう言うな。その分、武器を貰ったんだからな」


 国庫から貰った武器は値千金、売れば暫くは遊んで暮らせるような代物だ。


 「それもそうだな。報酬分の仕事はしなければな」


 おあつらえ向きにも仮面がある、そうそう簡単に存在がバレることもないだろう。


 「影の英雄として名を残してみせるんだから!」

 「頑張るのです!」


 エリスは愚かコルネリアまでもが乗り気な以上、今さら退けないしな。


 ◆❖◇◇❖◆


 「お前達が勇者を守るパーティですの?」


 大天幕の中、目の前で椅子に腰掛けるのは、この世界で最初に俺を無能扱いしたオルテリーゼだった。


 「その通りです」


 流石に貴人の手前、いつもの口調では差し障りもあるだろう、そう思い丁寧な口調を意識する。


 「実力は如何程なのかしら?」


 勇者クラスメイト達もその場に居合わせており、俺たちを注視している。

 

 「ここにいるイリュリア王国の護衛の方々以上の実力であることは確約しましょう。もっとも俺達は一般の冒険者に過ぎません。勇者様方の方がよっぽど強いはずですが」


 俺の言葉に護衛達は面白くなさそうな表情を浮かべ、オルテリーゼは焦りを漂わせた。

 それだけで情報としては十分すぎるくらいだ。

 おそらくオルテリーゼが焦るくらいに勇者達の実力は低い。

 それも束になって俺達にかかってきても勝てないほどに。


 「よく申せたものですね」


 眉間に皺を寄せながらオルテリーゼは言った。


 「実力を語るには比較対象が必要と思ったまでです」


 手向かいしてくるのなら応じるまでの話だ。


 「もう十分ですわ。下がりなさい」


 どうせ素性が割れないのなら、ここは一つ。

 勇者サマと王女サマには俺の自己満足に付き合って貰うことにしようか。


 「ちょっと、何か悪いこと考えてるでしょ?」


 大天幕を出たところでエリスは俺の脇腹を肘で小突く。

 これはいかんな……仮面があることに慢心して表情に出してしまっていたらしい。

 仮面は顔の上半分しか隠してないことを忘れていた。


 「なんでもないさ。お前達は自分やパーティメンバーの生存を第一に戦ってくれ」


 今思いついたばかりだが、これから行うのは、ちょっとした意趣返しだ。

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