第42話 新たなる秩序の介入
「ふーん、僕の
ヘルメスは大量に転がる魔物の屍を検分していた。
「手を引いた方がいいんじゃない?」
シレーナは魔物の負った傷を見ると何かに気付いたのか顔を顰めた。
それはヘルメスも同様、故に彼はある決意を固めた。
「誰が武器を彼らに与えたのか気になるところだね」
「このままでは私達の身が危ないわ」
シレーナもヘルメスも戦いを得意とするタイプの神族ではないため、より事態を深刻に捉えていた。
「神滅具は、僕が全部処分してあるから最悪の事態は防げそうな気もするけど」
「でもそれには神滅の秩序が機能してなければの話でしょ?」
シレーナの言葉にヘルメスは肩を竦めてみせた。
「存在を消せたところまでは上出来だったんだけどね。最後の最後にあんな置き土産を置いていくとはね」
神々の暴走を止めるための抑止装置たる神滅の秩序を創造神エステルは命が尽き、ハルトと同化する前に創造していた。
「フローズヴィトニルだったかしら……危険の芽は摘み取るべきじゃないの?」
自分に与えられた秩序をいいことに暴走する神達は、新たに創造された神滅の秩序フローズヴィトニルに対して戦々恐々としていた。
「もちろんそのつもりだよ。でもそれだけじゃなくて力をつける前に彼らも殺さないとね」
「あー怖い怖い。殺しも遊戯とか言いそうだわ」
シレーナの言葉にヘルメスは少年らしい無邪気な笑みを浮かべた。
「もちろん僕の行動は全て遊戯の秩序に則したものだからね、僕の関わった殺しは遊戯と定義されるんだよ」
得意の遊戯でこれまでに取り込んできた秩序は、時、勝負、運の三秩序。
遊戯に勝つための三秩序を取り込み、勝負事において最強とも思われた彼が初めて失敗したのが創造の秩序だった。
「同じ轍は二度と踏まない。せいぜい僕を楽しませてくれるといいな」
ヘルメスは仲間を連れて去っていくハルトの背中を見つめて言ったのだった。
◆❖◇◇❖◆
「ここが最前線拠点か」
地図にはミューレン村と表記された住民のいないこの村が魔族との最前線らしい。
無数の墓標、治療を受けるの冒険者や兵士達、放置され埋葬を待つ亡骸。
「血の匂いが濃いのです」
獣人であり嗅覚が鋭敏なコルネリアには匂いが濃くて辛いのか、顔には布を巻いていた。
集積される夥しい量の物資からも数千人がこのミューレンを拠点として戦闘を行っているがわかった。
「お前たちは冒険者か?」
村への入り口で警備を行なっているのか二人組の兵士に声をかけられた。
「これでどうだ?」
首から下げていたギルドカードを渡した。
「銀等級の冒険者パーティか……そこの獣人もそうなのか?」
兵士たちは俺のギルドカードを確認した後、布で顔を鼻からしたを覆ったコルネリアを小馬鹿にしたような顔で見つめた。
「ミノタウロスくらいなら問題なく瞬殺できるぞ?」
鉄爪を装備したコルネリアは牙狼纏による運動能力の強化を行わなくてもミノタウロスを楽々と屠っていた。
「おいおい、そいつは誇張が過ぎるだろうよ」
兵士たちの後ろから姿を現したのは、見るからに前衛職の冒険者だった。
「事実を言ったところで信じてもらえそうにはないな」
この世界の人間は実力至上主義なのかあるいは自分に絶対の自信を持っている人間が多いのか、やたらと突っ掛かってくる。
「同じ銀等級の俺でもミノタウロスを一人で相手取るのに苦労するんだぜ?」
冒険者の男が舐め腐った顔でコルネリアに向かって言った。
「なぜお前と同じものさしで測られなきゃいけないんだ?」
コルネリアは冒険者になってからの日は浅いものの素のポテンシャルは極めて高い。
抜群な戦闘センスと高い運動能力、正直言ってコルネリアに歯向か割れるようなことがあったとしたら勝てる気がしない。
「ほざけ、出来もしないようなことを言うってのは自分で大したことないって言ってるようなもんだぞ?」
「相手にするのも馬鹿馬鹿しいな」
こんな奴に付き合うのは時間の無駄でしかない。
俺は言葉での説明を諦めた。
「そこまで言うんだったら、ミノタウロスを瞬殺するっていうその腕前、見せて見ろよ」
チラリとコルネリアを見ると、冒険者の男の言葉など聞き流しているのか涼しい顔をしていた。
コルネリアのような幼い少女にさえ相手にされていない眼前の男は、バカを通り越して可哀想とまで思えてしまう。
「俺らに出番が回ってきたら見せてやるよ。実力の差ってやつをな」
コルネリアの実力を目の当たりにしたとき、この男がどんな反応をしてくれるか楽しみだな。
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