第36話 ドラゴンの串焼き

 「凄い人混みだな……今日はなんか行事でもあるのか?」


 街の真ん中にある広場に出てみると出店が出ていて人で多くの人がいた。

 この世界にまだ来たばかりの俺はイベントにも疎い。

 

 「お兄ちゃんは知らないのですか?」

 「あまりにも遠いところから来たんでな」


 異世界に召喚されたことは、言うわけにもいかず誤魔化した。

 すると、コルネリアは腕組みをした。


 「それならコルネリア先生がお兄ちゃんに教えてあげるのです!」


 鼻息荒くコルネリアが言った。

 

 「教えてくれ」


 妹が先生の真似事をしたいと言うならそれに付き合ってやるのも兄の勤めだろう。


 「えっへん!耳の穴をかっぽじってよく聞くといいのです!」


 どこでそんな言葉を覚えた……。


 「ケルテン王国の各地で今日は竜神際という祭りが行われているのです!」

 「どういう祭りなんだ?」

 「ザックリとしか知らないですが……ケルテンの伝承には、大規模な魔物の侵攻を受けたときにドラゴンが現れて国を守ったという伝承があるのです!もう何百年も前の話ですけど。それから毎年、この日が祭典の日となっているのです」


 なるほど、救国の英雄を称える祭典みたいなものか。


 「そしてあれが、このお祭りでしか食べられないドラゴンの串焼きです!」


 出店の一つをコルネリアはビシッと指さした。

 なんだこの祭りは……ドラゴンの存在をありがたがると共に物凄い不敬なことをしているのだが……。


 「ドラゴンを食べちゃっていいのか?」


 今まさに大量の魔物に脅かされているのにも関わらずドラゴンが伝承のように助けに来ないのはこれが理由だったりするんじゃ……?


 「希少価値の高さが人間にとってドラゴンの有難みを一番理解しやすいから、今日だけ売ってるみたいな話を聞いた事があります。それに伝承のドラゴンは、食肉化されているドラゴンとは違って竜人であるとされているので、多分バチが当たったりすることはないのです!」


 多分?と首を傾げながらコルネリアは教えてくれた。


 「ありがとな、コルネリア先生。今日の授業のお礼にドラゴンの串焼きを奢ろう」

 

 辺りに立ち込める美味しそうな匂いはきっとドラゴンの串焼きから漂ってくるものだろう。


 「じゅるり……」


 にぱぁぁと機嫌良さそうな表情を浮かべて尻尾をフリフリ。

 

 「♪ドラゴン〜ドラゴン〜」


 自作の歌を歌って俺のを握った。


 「食べたことないのか?」


 この世界の住人、ましてケルテン王国に住んでいたのなら食べたことくらいありそうな気はするんだが……。

 コルネリアは首を横に振った。


 「あんなの……高くて手が届かないんです」


 確かに希少価値があるって言っていたしな……。

 ちょっとした列に並んで、しばらくすると俺達の番だった。


 「ドラゴンの串焼き二本……いや、四本くれ。二本は持ち帰り出来るようしてくれると助かる」

 「あいよ!金貨二枚だ!」


 屋台の主人は、入れ物に入って味付けされたドラゴンの肉を手際よく串に刺していく。

 それを大きな火で炙りながら、空いた手で支払った金貨を受け取った。


 「毎度あり!」

 「兄ちゃん、そんな歳で金に余裕あるんだな!」


 俺の顔や身なりを見て屋台の主人は言った。


 「悪いことで稼いだ金じゃないぞ?」


 変な詮索をされないよう釘を打っておく。

 

 「いやなに、疑っちゃいねぇよ」

 「これでも銀等級の冒険者なんでな、実入りは悪くない」

 「大したもんだなぁ」


 そんなことを話しているうちに串焼きが焼きあがった。


 「へいお待ち!」


 二本はそのまま、二本は紙袋に入れてくれてあった。

 俺はそれを受け取り、コルネリアと共にちょっと離れた静かな所へ向かった。


 「エリス達の分も買ったが持ち歩くのは手間だな」

 「それなら食べちゃいますか!?」


 目を輝かせながらコルネリアは紙袋に入った串焼きを見つめた。

 

 「ダメだ。【次元牢獄デスモーテリオン】」


 俺は次元牢獄へと紙袋を放り込んだ。

 実はこの魔法、保温機能がついていたりする優れものなのだ。


 「ほい、コルネリアの分な」

 「ありがとうございます!」


 二人で一本ずつドラゴンの串焼きを頬張る。


 「あふっあふっ……うみゃいぃぃぃぃっ!」


 落ちそうなのか頬っぺたを手で押えながらコルネリアは満足そうに叫んだ。

 硬すぎず弾力のあるドラゴンの肉に香辛料の効いたタレが良い塩梅あんばいで、白米が無性に欲しくなった。


 「美味いなぁ……エリス達の分も食べてしまいそうだ」


 あまりの美味しさに不覚にも【次元牢獄デスモーテリオン】の魔法を止めてしまいたくなるほどだ。

 ここに白米があったら串焼きの匂いで一杯、串焼きで一杯、串焼きの余韻で一杯の合計三杯は食べれそうだ。

 エステルには申し訳ないが、当面の目標は白米を探して串焼きと一緒に食べることにしよう、そう密かに誓ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る