第32話 オスターヴィッツの古城にて①

 見えたな……。

 コルネリアとヒルデガルトを先頭に、半ば獣道と化した古城への道を登ったところで朽ちかけた城門とその周囲にオーガの姿を捉えた。


 「かなりいるわね」

 「私とコルネリアだけでは手に余るな」


 パッと見で五体といったところか。

 

 「接近を許した『魔術師メイジ』が嬲り殺しにされたって話はよく聞くわ……。ひぃっ!?い、今、目が合ったよね!?」


 これまで見た魔物以上に醜悪な見た目のオーガと目が合ったエリスは、ぶるっと震えた。

 顔や身体のそこかしこにイボがあり、歯並びの悪い口元と赤茶げた棍棒や斧。

 きっと武具の汚れは、冒険者達の体液によるものなのだろう。

 

 「ヒルデガルト、ここで隠れてる必要は無くなった。作戦などない、推し通るぞ!」


 オーガとエリスの目が合った、ということはつまりそういうことなのだろう。


 「コルネリアの力量を知りたい。手出しは無用だ!」


 ヒルデガルトはそう言うと、駆け出した。


 「行ってくるのです!」


 コルネリアもそれに続く。


 「Graaaaa!」 

 「Gra!」


 バレないはずもなく門の近くにいたオーガ五体がヒルデガルト達に対して身構えた。


 「死ねぇッ!」


 ヒルデガルトが剣を一閃、たちどころに腹を斬られたオーガが血を噴き上げる。

 

 「お兄ちゃんにいいところを見せなきゃ!」


 コルネリアは小柄な身体と俊敏さを活かして二体のオーガの攻撃をかわして跳躍、そのうち一体の喉をダガーで掻き斬った。


 「なぁエリス、獣人ってみんなあんな感じなのか?」

 

 身体能力が高そうなイメージがあるが、こんなにも強いのなら獣人族の大国があってもおかしくない。


 「ハルトには常識を学ばせないの行けないわね……。確かに人族に比べれば獣人達の身体能力は高いけど、コルネリアの戦闘センスがずば抜けて高いだけよ」


 そんなことを話しているうちにも一体、また一体とオーガは数を減らしていく。

 エリスは呆れたような表情でコルネリアの神がかった回避を見ていた。


 「これで終わりだな!」


 コルネリアが引き付けていた最後のオーガの目をヒルデガルトが突き刺して五体の討伐が終わる。


 「お兄ちゃん、私はちゃんと出来ていましたか!?」


 戦闘を終えたコルネリアが駆け寄ってきた。

 結果はヒルデガルトが三体、コルネリアは二体。

 

 「正直言って予想以上だ。良くよったな!」

 

 褒めるとコルネリアは目をキラキラさせた。


 「コルネリア、えらい?えらい?ヨシヨシして!」


 無意識なのか嬉しそうに尻尾を振りながらコルネリアは俺に抱きついた。


 「おー、よしよし!」


 俺はそっとコルネリアの頭を撫でた。

 でも俺が撫でたいのはそこじゃなくて、シッポとか獣耳なんだよなぁ……。

 ちょっとした好奇心で俺はコルネリアの獣耳を触ってみた。


 「ひゃうんっ!?」


 コルネリアの身体がぶるっと震えた。


 「そこは……ダメなのですぅっ!」


 顔を赤らめモジモジしながらコルネリアは言った。


 「おっとそれは悪かった」


 今度からは本人に事前に許可を求めてからにしよう。

 俺は脳内で勝手にそんな決定を下したのだった。

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