第24話 決着

 「【隠蔽フラウス】」


 アルヴィアーナの冒険者ギルドに所属する『魔術師メイジ』達に用意してもらったと、エリス、マクタリーナ、マエルの姿を隠した。

 鑑定士系統の職業持ちでなければ見破られることもないだろうというのは流石に希望的観測が過ぎるか……?

 だがそう簡単に見破られるものでもないだろう。

 後は機会を待つだけだった。

 やがて大地を踏みしめるケルベロスの足音が近づいて来た。

 そして【隠蔽フラウス】で隠したの前までやってくると立ち止まった。

 チッ……バレたか?

 そんなはずはないと願いつつも最悪の事態を考慮する。


 「性懲りも無く再びお前が俺の相手となるか?」


 オーガスタは先程の戦闘で勝ったからかしたり顔で言った。


 「十分懲りた、その上でここにいる」


 さっきの戦いで一人では勝てない、それが分かった。

 だからより多くの人間の力を借りることにした。

 オーガスタの眼が怪しく光る。

 魔眼を凝らして周囲の状況を確認した、というところか。

 バレてくれるなよ……?

 顔には出さず心の内で祈る。


 「ふん、小細工すらせずに俺の前にいるとは余程死に急ぎたいらしいな」


 ふぅ……隠蔽魔法の露見は免れたか。

 これで第一段階はクリアだ。


 「好き好んで死にたい奴はいない。見逃してくれるってんなら、それに越したことはない」

 「逃がすわけがなかろう」


 オーガスタは獣じみた八重歯を覗かせた。


 「そいつは残念だ」


 俺は詠唱を唱える振りをして片手を振り上げる。


 「ケルベロスよ、破壊の限りを尽くせ」


 オーガスタはケルベロスに命じる。

 『召喚士サモナー』じゃない俺にはどういうカラクリかは分からないが、ケルベロスはその命令に答えるようにして吼えた。

 そして一歩目を深々と踏み込んだ。

 かかったな――――。

 前脚を上げるのは後ろ脚が踏み込んでからだからケルベロスは罠に嵌ったことにまだ気付かない。

 或いは、気付いたがもう遅かったか―――――。


 「「「氷縫アイスニードル!!」」」

 「【氷牙貫穿グラキエースアクス】!」


 後ろ足の着地と共に小声で詠唱していたエリス、マクタリーナ、マエル、が魔法を放つ。

 それと同時に【隠蔽フラウス】の魔法を解き、短縮詠唱で俺も魔法を放った。

 放たれた四つの魔法は、仕掛けにより動きの鈍ったケルベロスの脚を貫いた。

 そして地面へと固定する。


 「Grrrrra!」


 ケルベロスは苦し紛れに吼えると、どうにかその場所から脱しようと藻掻く。


 「【神滅一矢ミストルテイン!】」


 相手が動くから当たらない、ならば当たるようにすればいいだけの話。

 『魔術師メイジ』たちの協力を得て用意した仕掛けの正体は、泥濘化した粘着質の土壌。

 運動能力に自信のあるケルベロスと言えども動きは鈍る。


 「貴様ァァァァッ!」


 今さら罠の存在に気付いたオーガスタは怒鳴るがもう遅い、神すらも滅ぼす矢は見事にケルベロスの眉間を射抜いた。

 絶命の叫び声を上げる暇なくケルベロスは泥濘の中に倒れた。


 「さっきまでは小細工など用意していなかったはずだ!」

 「そうだ、小細工などは用意していない。この街の『魔術師メイジ』の手を借りてケルベロスを葬り去れるだけの大仕掛けを用意した。こうも見事に引っかかってくれるとは望外の喜びだよ」


 自分の意図した通りとなったわけだから、気分はこの上ないほど良い。


 「この仮は必ず返す!」


 忸怩たる思い、それが滲み出た表情でオーガスタは言った。


 「その必要は無いぞ?【光芒壊矢サジタリウス】!」

 

 踵を返し回避機動を取ろうとしたオーガスタの背中の羽の根元に【光芒壊矢サジタリウス】が命中。


 「なっ……!?飛べ、ないっ!?」


 オーガスタの機動が乱れ、墜落し始める。

 これで終わりだな。


 「【獄牙制滅スプレシオ】」


 残った魔力をかき集め回避不能な攻撃数の暴力を繰り出す。


 「【召喚サモン】!」


 苦し紛れにオーガスタはその身を守ろうと数匹の魔物を召喚し身を守ろうとするが数の暴力を前にそれは無意味だった。


 「ぬぐぉっ!?」


 オーガスタは魔法の牙にその体を抉られ散華した。

 随分と消費したな……。

 こちらも魔力はすっからかん、これ以上の戦闘を行う余裕はない。

 力押しの限界だった―――――。

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