第23話 迎撃準備

 「それは本当か!?」


 マクタリーナと共に参加したギルド幹部の会議の席、居合わせた幹部達は唖然としていた。


 「私がこの目で確認しました。間違いはない」


 マクタリーナの発言に幹部達の視線が一斉に俺へと集まる。


 「ハルト君、君から彼らに話してください」


 何という無茶ぶりだ……。

 俺の【神滅一矢ミストルテイン!】ですら滅ぼせないと言っても比較対象がなければ古代魔術の威力など現代を生きるギルド幹部らには伝わらない。

 なんと説明したものか……。

 

 「を屠れる魔法が通用しなかった」


 俺の正体の露見は避けたいところだが……これしか説明の仕方が思い浮かばない。


 「ついでに言えば、魔界公爵の召喚したケルベロスは運動能力が極めて高く、見た目のわりに動けるといった印象だ」


 そう伝えると幹部達はざわめきたった。


 「少年はを倒したと言うのか!?」

 「疑わしいな、そもそもつい先日だがが出没したのは、隣国イリュリアだと聞いているが?」


 疑念、戸惑い、驚き、様々な視線が俺へと注がれる。

 

 「本当に君はを倒したというのか?」

 

 テュルクと名乗った男は真っ直ぐに俺を見据えて尋ねた。


 「そう言ったつもりだ」

 「ふむ……仮にそれが本当のことだとして、それほどの力を持つ君は何者だ?」


 マクタリーナも気になるのか俺を見つめる。


 「答える義理はない」


 隣国で召喚された異世界人ですなどと言おうものなら、面倒なことになりかねない。


 「貴様ァッ!訊かれたことには素直に答えろ!」


 幹部の一人が怒鳴った。

 俺はそれを無視してテュルクの目を見返した。


 「……まぁ冒険者になった者の中には余人に明かせぬ過去を持つものもいるだろう。必要以上の詮索はやめておこう」


 怒鳴った男に対してテュルクは諭すように言った。

 コイツはどうやら話がわかる人間らしいな。


 「の巨人を倒すほどの実力者の君に聞こう。どうすればそのケルベロスとオーガスタを倒せると思うかね?」


 テュルクは眼鏡の向こうにある目を細めて言った。



 ◆❖◇◇❖◆


 「落ち着いて避難してください!」

 「騎士団とギルド職員の指示に従って避難してください!」


 竜騎兵ドラグナーの報告がもたらされアッルヴィアーナへオーガスタとケルベロスが接近してきていることが明らかになると、街は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。

 ギルド職員だけに留まらず、街に駐留する騎士団までを動員しての住民の避難が行われた。


 「本当にやるのですか?」

 「多くの人間を危険に晒すことになるが思い浮かぶやり方がこれしかない」


 予想されるケルベロスの進路上にはアッルヴィアーナの冒険者ギルドに所属する『魔術師メイジ』達が総力をあげて迎え撃つを整えている。


 「だがもし失敗すれば……」


 マクタリーナはその先を言わない。


 「そうなればこの街は終わりだろうな」

 「随分と他人事なんですね」

 「だがそんな危険性を孕んでいたとしてもギルドの幹部達は俺に賭けた、違うか?」

 「それはそうですが……」


 マクタリーナは心配そうな目で準備作業に従事する『魔術師メイジ』達を見つめた。

 余程この街と冒険者達を大切に思っているのだろう。

 

 「揃ったわ」


 エリスが俺とマクタリーナのいる丘へと上ってきた。

 キェルケともう一人、ギルド幹部の一人であるマエルを連れてきていた。


 「俺はお前に全てを託すぜ」


 人好きのする笑顔でニッと笑うマエルはエリスと同じ『大魔術師ハイウィザード』を職業とする男だった。


 「そう言って貰えると助かる」

 「でもよ、もしお前がここでヘマをやらかすと中央のギルド庁の役人に捕らえられて査問会送りだぜ?」


 査問会というのがどういうものかは分からないが、ろくでもない所だろうという予想はつく。


 「そうなったら蹴散らしてやるまでだ」

 「国を敵に回すかもしれんぞ?」

 「そうなったらいっそ魔王軍にでも就職するさ」


 そもそも創造神エスエルとの間に交わした優しい世界の実現するという約束の前に置いては人族も魔族も些末なものでしかない。


 「ハハハハ、面白い奴だな」


 俺の言葉を聞いたマエルは腹を抱えて笑った。


 「職業を持ち、この世界に生きているという時点で人族も魔族もさして変わらないだろう。敵対しているのは互いに互いの正義があるからに過ぎない」

 「確かにそうかもな」


 マエルは頷いた。

 そしてこう言った。

 

 「世の中がお前みたいな奴ばかりなら、こんなにもくだらない戦いも起きないだろうよ」


 ふと丘の下に目をやれば準備にいそしむ『魔術師メイジ』達が作業を終え始めた。


 「ハルト、敵が来たわよ」


 北の方角に四足の巨大生物が見えてきた。


 「なら、俺も用意をしようか。協力してくれ」

 

 対策は施した、俺を侮っていられるのはこれまでだ―――――。(迷宮でのことを根に持っている)

 俺は二つの魔法を行使しながらケルベロスのいる方角を見つめた。


 ‡謝辞御礼‡

 

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