第22話 敗北
俺はキェルケを、マクタリーナがエリスを連れてどうにか上から降ってきた何かを避けることが出来た。
降りてきたのは三つの頭部を持つケルベロスだった。
なんつー大きさなんだ……終末を招く巨人のそれを上回る質量感、遥かにこちらの方が脅威度が高そうだ。
「人族側にしておくのは実に惜しいな」
こちらを値踏みするような視線を空中から投げかけてくる。
「あいつが誰だかわかるか?」
こっちの世界に住む者なら何か知っているのでは、と俺はキェルケに訊いた。
「アイツのこと、お前は知らねぇのか!?」
キェルケは驚き呆れたような表情をう浮かべた。
「遠くの田舎で育ったからな、その辺は疎い」
「それはもう疎いとかそういうレベルじゃねぇよ……アイツはオーガスタといってな召喚魔法じゃ右に出るものはいねぇ化け物だ」
キェルケは恐れを顔に滲ませながら教えてくれた。
「そうだ、その女の言う通りの魔界公爵オーガスタだ」
オーガスタは地面に着地した。
召喚魔法で戦うということは、オーガスタ本人自体はそう強くないということか?
普通に考えれば得意な分野で戦うだろう。
職業として『
ならば速攻で―――――
「俺を倒そうとするのならそれは愚かしい行為だ」
「なっ!?」
「貴様は気付かなかったのか?」
馬鹿にしたような目でオーガスタは俺を見つめる。
「何をだ!?」
「それが分からないとは余程の愚者と見受ける」
確かに何か大事なことを見落としている、そんな気はしていた。
「お前達は今まで何処で何をして、今は何処にいる?」
「まさかっ!?」
ヒルデガルトがハッとした顔になった。
今まで何処で何をしてきて、今は何処にいるのか。
オーガスタの言葉を脳内で反芻させる。
今まで俺達はレチュギア迷宮に潜り続け、今はレチュギア迷宮の入口で夥しい量の魔物と戦闘したところだ。
ん?レチュギア迷宮だと……?
なぜ、俺達はこれほど多くの魔物の存在に気づかなかった?
「お前、魔法による隠蔽が可能なのか!?」
「ようやく気付いたか?だが答える義理はない」
そりゃそうだな、手の内を明かすような馬鹿はしないのが普通だ。
「さて、これ以上は時間の無駄だ。殺れ、ケルベロス」
召喚士は召喚した魔物を使役するのが特徴。
オーガスタに命じられたケルベロスは緋色の目を俺達へと向けた。
「お前ら、俺が掴まれと言ったら何処でもいいから俺に触れろ」
最悪の事態を想定してエリス達に伝えておく。
空気をピリつかせるケルベロスに加えて実力の底が見えないオーガスタ。
今の俺一人で手に負える存在じゃ無さそうだ。
「Graaaaa!」
ケルベロスが
見るからにヤバそうだ。
「【
終末を招く巨人とまで呼ばれるキュクロプスさえも葬った魔法をぶつける。
これがおそらく俺の使える古代魔法の中でもっとも強力なはずだ。
一条の
頼む、これで殺れなければ負けだ――――。
「Graa!」
なっ……!?
次の瞬間、俺は信じられないものを見た。
ケルベロスは、その巨体に似合わぬ移動速度で【
これはダメだ、勝てる方法が思い浮かばない!
「全員、俺に掴まれ!」
ケルベロスはこちらを蹴散らす勢いで土煙をあげながら迫ってくる。
いつでも掴まれるよう言い含めておいた四人は、すぐさま俺へと手を伸ばした。
それを確認して俺は、短縮詠唱を叫ぶ。
「【
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