第20話 異変2

 「放てェッ!」


 タイミングを見計らっていたマクタリーナが叫ぶ。


 「槍穿バンカーバスタ!」

 「焔滅ロヴィーナ!」

 「獄牙制滅スプレシオ


 三者三様の攻撃魔法が放たれる。

 俺の放つ【獄牙制滅スプレシオ】に関して言えば数十の魔法陣を展開する面制圧的な攻撃だった。


 「一匹足りとも魔物が近付いて来ないのだが?」


 手持ち無沙汰のヒルデガルトが不満そうな顔をした。


 「まぁ待ってろ。そのうちこっちの手が追いつかなくなるさ」


 魔力が切れたとき魔法系の職業の人間は何も出来ない役立たずになる。

 その時が前衛職が本領発揮する機会なのだ。

 まぁもっともヤバくなったら【転移ポータル】で即座に撤退するつもりでいるがな。

 

 「ハルト、弾幕を張って!」


 継続して魔力を供給しているにも関わらず一定時間が経つとどうやら、魔法は消えてしまうらしい。


 「待ってろ。【獄牙制滅スプレシオ】」


 再びいくつもの魔法陣が浮かび上がった。

 そして放たれる高威力の攻撃魔法。

 魔物達は迷宮の入口を出たところですぐさま骸へと変わった。

 だがそれを蹴散らしてもなおこちらへと向かってくる。


 「まるでバカの一つ覚えみてぇだな。面白みがねぇ」

 

 キェルケは吐き捨てるように言いつつも攻撃の手を休めることは無い。

 既に迷宮の入口だった場所には山のように魔物の屍が積み上がっている。

 俺達たった三人の魔法攻撃で、魔物達を蹂躙していたのだ。


 ◆❖◇◇❖◆


 「いいのかい?これでは用意した魔物が無駄になってしまうよ?」

 「無駄にはならんさ。ちゃんと彼らの魔力を奪い続けている」

 

 道化師のような格好の男と魔族の男の二人は空から様子を観察していた。


 「まぁガルドアの二の舞にならないことを祈るよ」


 道化師の男は楽しそうに言った。


 「魔界公爵であるこの俺様をなんだと思っている?」

 「召喚士として素晴らしい実績をお持ちのオーガスタさん、というくらいの認識かな」


 道化師はどこか少年のような声で飄々としていた。


 「その減らず口、叩けなくしてやろうか?」

 「おー怖い怖い」


 意に介した風でもなく勘弁だとばかりに手をヒラヒラと振った。

 

 「まぁそうカッカしなくてもいいと思うよ?僕達の共闘関係は今のうちだけだからさ」

 「チッ……これだから神族は嫌いだ」

 

 道化師の男の正体は、遊戯を司る神ヘルメスだった。

 場合に応じて人族にも魔族にも肩入れをする、それがヘルメスという神だった。

 もっともガルドアやオーガスタに力を貸しているのは彼にとっては遊戯でしかないのだが。


 「そろそろ一人目の『魔術師メイジ』がダウンかな?」


 ヘルメスに言われてオーガスタは地上に視線を向ける。


 「ガルドアを殺った連中がどんなものか気になったがこの程度だとは興醒めもいい所だな。これ以上は時間が惜しい、そろそろ仕掛けるとしようか」

 

 そう言うとオーガスタは人差し指に嵌めた指輪に息を吹きかけるのだった。

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